『少年A矯正2500日全記録』(草薙厚子)
著者は少年鑑別所の法務教官の経験があるようですが、この本はあくまでも取材をして書いたルポであって、実際に少年Aの矯正に関わったわけではありません(矯正の当事者がこんな形で本を出せるはずもないが)。つまり、この書名はいささか「看板に偽りあり」の感。内容的にはしっかりしたものなので、この点はかえってマイナスのような気がします。
少年Aとは、1997年5月に神戸で起きた衝撃的な殺人事件の犯人「酒鬼薔薇聖斗」のこと。この本は、彼が逮捕後、関東医療少年院で矯正教育を受け、さらに東北少年院で職業訓練を受けて、今年3月に仮退院するまでの記録です。私は当時からこの事件に興味を持ち、『「少年A」14歳の肖像』(高山文彦)や『「少年A」この子を生んで……』を読んで、「少年Aはなぜ事件を起こしたのか」を思いめぐらせていたので、更生についても知りたかったのです。
精神鑑定医らによるさまざまな検査、調査によって、原因は性中枢の未発達による「性的サディズム」(暴力シーンをイメージすることでのみ性的な興奮と満足を覚えること)と分析され、その「性的サディズム」と「対人接触のあり方」という二つの問題の克服を目指して、少年Aの矯正教育が始まります。スタッフが、赤ん坊から育てなおすようなプロセスで、擬似家族の役割を演じつつ、長期戦で教育にあたっていくうちに、少年Aの気持ちは少しずつ変化していきました。2、3年後には贖罪教育も始められ、被害者への贖罪の気持ちを持つようになります。そして、丸4年後の2001年から東北少年院で職業訓練を受け、再び医療少年院に戻った後、仮退院の申請が認められたわけです。
少年Aは完治したのか、再犯の恐れはないのか、それは誰にも証明できません。少年院という限られた世界の中では問題がなくても、刺激の多い、しかも逆風ばかりの厳しい社会に出て大丈夫なのか、誰にもわかりません。更生の道を歩き出していると信じたい、人間の可能性を信じたいと思いつつ、怖さを覚えてしまうのが普通の人間の感覚かもしれません。難しい問題です。
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