『残虐記』(桐野夏生)
前作『グロテスク』では東電OL殺人事件を題材にした桐野夏生が、今回は新潟少女監禁事件と思われる監禁事件をテーマにこの小説を書いています。細部は変えてあるものの、両作品を読んだ誰もがそれぞれの事件を思い浮かべるはず。世間の人々が好奇心と興味をそそられつつ、タブーとしていることにあえて踏み込んでいく、著者の作家としての自負心と意気込みをまず感じました。
監禁事件の被害者が書いた手記の中に小説が含まれている、という凝った構造を使って、被害者の実体験や想像、妄想が綴られます。その手記の中に「人の不幸を覗き見る『罪なき人々』の視線」とか「与えられた傷が深ければ深いほど、善意と同情でさえもさらに傷を抉る、ということを私は学んでいた」と書きながら、読者をその覗き見に導く著者が、「一番残虐なのは、これを書いた私と、読んでいるあなたよ」と言っているような気がしました。
それがわかっていながら、思わずぐいぐい引き込まれて、あっという間に読み終えてしまったのも事実。怖いもの見たさからだけではなく、ミステリー、(歪んだ形の)恋愛小説の観点から読んでもなかなか楽しめます。けれども、何とも後味が悪かったのもまた正直なところです。10年間も監禁されていた新潟の女性は、今も過去と必死に闘っているに違いなく、そこにこういう小説を出版していいものか、と疑問も感じました。
次回作は実際の事件に基づかないまったくのフィクションを期待したいです。エドガー賞にノミネートされた『OUT』のような、桐野夏生ならではの小説が読みたい!
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