『破裂』(久坂部羊)
破裂 上 (1) (幻冬舎文庫 く 7-2)
破裂 下 (2) (幻冬舎文庫 く 7-3)
新聞広告につられて、ひさしぶりに小説を読みました。単行本の帯には「医者は、三人殺して初めて、一人前になる。」というセンセーショナルな文句や「これぞ、平成版『白い巨塔』」という絶賛の声が並んでいますが、実はこの小説のテーマになっているのは「人の生と死」をめぐるもっと根深く重い問題です。そのテーマをめぐる社会派小説として面白く読めました。
阪都大学を舞台にした手術ミス事件、医療裁判、教授選……と、『白い巨塔』と重なるメインストーリー(「白い巨塔」のことも出てくる)に絡んでくるのが「高齢者問題」。厚生労働省の一人の官僚が「プロジェクト《天寿》」なる計画を考え出し、「PPP」(ぴんぴん元気でいて、死ぬときはポックリ逝く)を行政主導で進めようとします。
著者は阪大出身の医師とのことで、病院の内情や医学知識について詳しく語りつつ、一見とんでもないプロジェクトにも現実味を持たせていて、ぐいぐい引き込まれました。が、人物描写やストーリー展開にやや甘いところがあるし、ミステリーとして読むには物足りない気がします。このあたりが本当に惜しい!
結局、このプロジェクトは頓挫して終わるのですが、ナチスにも通じるこの発想を忌まわしく思いながら、100%否定できない自分に気づいて慄然とします。それどころか、年老いてこのプロジェクトの対象になったら、PPPのための手術を希望したいとさえ思ってしまうのです。
話はそれますが、山田風太郎が『あと千回の晩餐』というエッセイ集の中で、「国立大往生院」なる老人集団安楽死施設について書いていたのを読んだことがあります。ご本人はブラックユーモアのつもりだったようですが、真剣にそれを望むお年寄りからの手紙が相次いだと言います。
医学の進歩は病気を次々に克服し、平均寿命を延ばしている……それは望ましいことであるはずなのに、そうとばかりは言えない現状……いろいろ考えさせられます。
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『廃用身』(久坂部羊) (2005年2月17日)
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