『菊と葵のものがたり』(高松宮妃喜久子)
昨年末、92歳で亡くなられた高松宮妃喜久子さまが記された随筆録のほか、談話集が加えられています。
徳川慶喜の孫に生まれ、18歳で高松宮(昭和天皇の弟)に嫁いだ妃殿下が語られた、慶喜公のこと、皇室や高松宮のこと、14ヵ月間にわたって欧米24ヵ国をまわった新婚旅行、第二次大戦前後の生活など、興味深い話ばかりでした。昭和という激動の時代を皇族の目から見た貴重な記録です。
妃殿下は宮内庁などの反対を押し切って『高松宮日記』の出版を断行したそうですが、そんな進取的なご気性がそこここに感じられました。思わずくすりと笑ってしまうようなエピソードもあり、自由闊達なお人柄が偲ばれました。
当然のことながら、随筆も談話も日本語がたいへん美しい。とくに、秩父宮妃、三笠宮妃との鼎談は、ため息が出るほどです。「あそばす」という言葉がこんなにも美しく品のよい言葉だったとは……。
歴史的価値などを抜きにしても、読み物として十分に楽しめます。妃殿下は優れた随筆家でいらしたようです。
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