『廃用身』(久坂部羊)
先日読んだ『破裂』が面白かったので、この著者のデビュー作『廃用身』を読んでみました。
「廃用身」とは、脳梗塞などの麻痺で回復の見込みがない手足のこと。この本の主人公、漆原医師は、勤務先の高齢者向けデイケア・クリニックで、老人の「廃用身」つまり麻痺した手足を切断する「Aケア」という新療法に取り組みます。Aケアによって、本人のQOL(生活の質)が向上するうえ、介護が軽減されるという効果が期待できるから。
前半はAケアに関する漆原医師の手記、後半は出版元の編集部註の形になっているので、ノンフィクションを読んでいるような錯覚に陥ります。ぎょっとするようなこのAケアが、誠心誠意、老人に向き合う漆原医師を見ていると、「今後の老人医療の一つの方法かもしれない」とも思えてくる……そこがこの小説のすごいところです。
医師でもある久坂部氏は『廃用身』と『破裂』両小説で、老人医療に衝撃的な方法を取り入れることで、老人医療や介護問題の危機を訴えています。詳しい経歴は不明ですが、たぶん実際の医療を通じて危機感を肌で感じているのでしょう。小説そのものの価値より、その問題提起として意義のある本だと思います。
廃用身を切断することは、社会の廃用身になった老人を切り捨てることに繋がるところが怖ろしい。けれども、ますます高齢化が進む将来の日本を想像するのも怖ろしい。人間の知恵と技術がいい方法を探り出してくれることを願うばかりです。
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