『先達の御意見』(酒井順子)
先達の御意見 (文春文庫 さ 29-2)
『負け犬の遠吠え』の著者の酒井さんが「負け犬」をテーマに人生の先達たち(阿川佐和子、内田春菊、小倉加代子、鹿島茂、上坂冬子、瀬戸内寂聴、田辺聖子、林真理子、坂東眞砂子、香山リカ)と行なった対談集。
錚々たるメンバーが語る「負け犬」をめぐる話題は、それぞれの個性が出ていて含蓄があり、たいへん面白く読めました。印象に残った話を引用しておきます。
阿川佐和子
(50代になったら)既婚、未婚を問わず、「みんな、それぞれの人生を歩んできたんだねえ」という感慨があってね。お互いに近づいているというか、「あっちは勝ち犬だわ」とか「負け犬のほうが楽しそうだわ」という気持ちはもう超えちゃってますね。小倉千加子
実際は結婚しているという勝ち負けと、その人が幸せかどうかが別の次元になったものだから、女性の中で優越感と劣等感が交錯して、自分がなんなのかわからなくなってしまった。そこで、それぞれの次元では「はい、負けましたよ。それが?」と素直に言えばラクになる。これだけ複雑になった社会では、負けてる部分をさらしてラクになりましょうと言いたい。上坂冬子
一人で幸せに生きるコツを一つだけ伝授してあげましょうか。一人で生まれてきた人間が一人で死んでいくのは当たり前で、どいつもこいつも何れみんな平等に死んでいくんだと考えてごらんなさい。少なくともその瞬間はパーッと心が晴れますよ。瀬戸内寂聴
紫式部はとうとう紫の上を幸せにはしませんでした。みんなが渇愛する源氏から最高に愛された女でありながら、最後まで出家を許されず魂の平安を与えられない悲劇の人でもある。紫の上こそ結果的には負け犬だと思いますよ。田辺聖子
「負け犬」っていうのは酒井さんなりのセンスでできた言葉で、全然勝ち負けと関係なくって、そういう状況に偶然なった、ということでしょう。人生は勝ち負けで計られるんじゃなくて、自分が満足しているかどうかじゃないかと思うのよね。普通のお仕事をなさっている方でも、ちゃんとその職場で機能したり、あるいは周りにいる人たちから「あなたと一緒でとても楽しかった」とか「働きやすかった」とか言われたり。それも形を変えた子供だと思うの。
林真理子
私、不思議なんですよ。酒井さんみたいな「高級負け犬」って、ちゃんと努力していい大学に入って、有名企業に就職した人なのに、どうして結婚という努力だけはしないのだろうかって。
この本を読んで、ふと思ったこと――『負け犬の遠吠え』で酒井さんが「独身女性にとっての永遠の大スター」にあげていた向田邦子さんがもし生きていらしてこの本を読んだら、どんな話をするだろうか? そして、香山さんとの対談で話題に出たアメリカのライス国務長官の結婚観はいかに?
やはり、女性にとって、結婚は永遠のテーマのようですね。
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