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2006/04/22

『父の詫び状』(向田邦子)

父の詫び状 <新装版> (文春文庫)
父の詫び状 <新装版> (文春文庫)

 20数年ぶりに『父の詫び状』を読み直しました。先月初めに急逝した久世光彦さんのエッセイ集『ニホンゴキトク』を読んだら、向田さんのことが度々出てきて、無性に読みたくなったんです。それに、向田さんがこのエッセイを書かれたのはちょうど今の私の年齢であることに気づいたことも理由のひとつ。

 若かりし頃、向田さんのエッセイを読みあさり、エッセイの見事さに感服するとともに、向田さんの生き方、ライフスタイルにあこがれていた時期がありました。きっかけはたぶん、テレビドラマの脚本家として興味を持ったからに違いありませんが、エッセイを読んでそのお人柄に触れ、凛として一本筋が通った大人の女性の魅力に引かれたのです。

 ひさしぶりに読んだ『父の詫び状』はやはり面白い……そして、うまい。執筆当時にもすでにあまり使われなくなっていた古い日本語をほどよく取り入れて、戦前の家庭風景の一場面一場面を鮮やかに蘇らせています。文章力や描写力もさることながら、脚本家ならではの構成力がまた素晴らしい。いくつかのエピソードが最後にひとつに繋がるのが実に見事で爽快です。

 同じ年齢の我が身を思うと、いろいろな意味で愕然とするばかり。向田さんのような才女と比べるべくもありませんが、自分なりに年齢分の重さを持った教養や思慮分別を身に付けたいものだと思いました。

 向田さんが生きていらしたら、どんなふうに歳を重ね、どんな作品を書いていらしたかと思うとたいへん惜しまれますが、いつまでも美しい中年のままのイメージを残して旅立たれたのは向田さんらしい気もするのでした。

追記(2006年5月9日):
 GW前から銀座松坂屋で開催されていた「向田邦子展」の最終日最終時間に滑り込みました。原稿や手紙のほか、向田さんご愛用の洋服や靴、食器、小物など様々な品が展示されており、それらを見ていると向田さんの心意気が伝わってくるような気がしました。と同時に、どこかから「こんな展示会を開くことになるなんて、不本意きわまりない」という声も聞こえてきそうに思えるのでした。あの事故からもう25年も経つんですね。


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コメント

細かい内容は殆ど忘れていますが、向田さんのエッセイは殆ど読んでいます。
惜しい方が早世なさったと思うと同時に、

∥いつまでも美しい中年のままのイメージを残して旅立たれたのは

うなずくことしきりです。

投稿: | 2006/04/23 13:18

>涼さん

 こんばんは。

 この『父の詫び状』の中にアマゾンの飛行機事故の話があって、切ない思いがしました。アマゾンのおんぼろ飛行機は大丈夫だったのに、お隣りの台湾で事故に遭遇するとは……。

 お体、お大事にしてくださいね。

投稿: Tompei | 2006/04/23 21:19

Tompeiさん、おはようございます。
私も向田邦子さんのエッセイが大好きです。
端正な文章もそうなのですが、そこに透けて見える生き方への姿勢みたいなものに憧れるからだと思います。

小説の方は、そのほろ苦さがしんどいなあと感じた若い頃もありましたが、年を重ねてしみじみとかみしめられるようになってきました。

エッセイも、この年でまた、読み返してみたくなりました。

投稿: Kako | 2006/04/27 09:44

>Kakoさん

 こんにちは。おひさしぶりです。

 Kakoさんも向田さんのエッセイをお好きなんですね。何だかわかるような気がする……Kakoさんのブログの文章には向田さんのエッセイに通じるものがあるように感じます。

 またブログを復活されて安心しました。あのままやめちゃったら淋しいなぁと思っていました。お互いにマイペースでぼちぼち続けましょう!

投稿: Tompei | 2006/04/27 14:04

向田邦子さんというと飛行機事故で亡くなられてから向田さんの実生活がドラマ化されたのをみたことがあります。題名は「黄色いバラが好きだった。」で向田さん役は三田佳子さんがやられていて、お父様とのふれあいを中心に描かれていました。向田さんとお父様は新しもの好きで寂しがり屋でそのくせ素直になれなくていわゆる似たもの同士だったと。お父さんが、作家として売れっ子で忙しく、結婚もしないで昼も夜もなく仕事をしている向田さんを心配して陰ながら見守っているシーンが印象的でした。最後に向田さんが取材旅行に行くため留守番電話に吹き込んだメッセージが流れてドラマは終わります。この後に事故でなくなった字幕が流れます。たしか「寺内貫太郎一家」も向田さんの作品ですね。エッセイも読んでみようと思います。

投稿: みかん | 2006/10/16 15:09

>みかんさん

 おはようございます。レスが遅くなってごめんなさい。

 そうそう、向田さんは黄色いバラがお好きでしたね。エッセイに書いてあった記憶があります。私も黄色いバラは好きだけど、何故か花言葉があまりよくないのがうらめしいです。

 『寺内貫太郎一家』は私にとって大切な存在ですが、向田さんの一番の魅力はエッセイにあると思います。ぜひ読んでみてくださいね。

投稿: Tompei | 2006/10/17 08:23

かみなり屋です。
キーワード「向田邦子」で検索してやってきました。
さっき自分のブログで、
「父の詫び状」生原稿公開の話しを書いたばかり。
彼女の作品は語れるほど読んだことがないので、
これからじっくりと向き合ってみたいと思います。
ではまた。
http://kaminariya.blog95.fc2.com/

投稿: かみなり屋 | 2007/04/09 20:39

>かみなり屋さん

 はじめまして。コメントありがとうございます。

 かみなり屋さんのブログを拝見しました。万年筆の字っていいですねぇ! インターネットの世界の中の肉筆は何だかとても温かく、それでいてとてもお洒落ですね。アナログ世代の私さえ、字を書く機会が減ってきた昨今ですが、万年筆の字のよさを改めて実感しました。これからも楽しみに読ませていただきます。

投稿: Tompei | 2007/04/09 23:00

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