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2006/11/16

『わたしを離さないで』(カズオ・イシグロ)

わたしを離さないで
わたしを離さないで

 ひさしぶりの更新です。江戸検の後、内職に追いまくられているうちに風邪をひいてグズグズしていました。回復力がめっきり鈍くなった人生の秋です……。

 さて、『わたしを離さないで』は、私にとってひさびさの翻訳物(カズオ・イシグロ氏は日本生まれのイギリス作家)。本を選ぶ時の参考にしているサイト「WEB 本の雑誌」の「今月の新刊採点ランキング」コーナーで、採点員が全員満点をつけていたので、気になって図書館に予約を入れておいた本です。

 キャシーという名の「介護人」が、「ヘールシャム」という施設で過ごした少女時代を回想するところから小説は始まります。ごく普通の寄宿舎生活のように見えて、何かが違う謎めいた「ヘールシャム」での日々。「ヘールシャム」とはどんな施設なのか、「介護人」「提供者」とは何なのか……好奇心に駆られてどんどんページをめくってしまいます。

 謎解きを目的としたミステリーではないものの、謎を予感し、想像し、確信する過程にこそ、この本の醍醐味があるように思うので、興味のある方はこの先を読まずに、実際に本を読んでみてください! 以下、ネタばれあり。

 衝撃的な事実が淡々と語られるだけに、余計に心に重くのしかかります。まさか、人間はこんなことまでしないよね……ううん、もうその片鱗が見えているじゃない……とあれこれ考えさせられます。臓器売買事件が世間を賑わしている時だけに、背筋がぞぞぞとしました。エミリ先生が真実を語った時の次の言葉がとても印象に残っています。

こういうことは動きはじめてしまうと、もう止められません。癌は治るものと知ってしまった人に、どうやって忘れろと言えます? 不治の病だった時代に戻ってくださいと言えます? そう、逆戻りはありえないのです。

 この小説には、クローン人間や臓器移植について具体的な説明はなく、その是非を問いかけているわけでもなく、あくまでもそういう運命に生きる主人公たちの人生を語っているだけ。だからこそ、彼女たちの中にあたりまえの人間らしさを見るのがつらく切なく感じられます。うまく表現できませんが、人間というものをいろいろな側面から考えさせられる小説です。

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