『そろそろ旅に』(松井今朝子)
ひさびさに小説を読みました。昨年『吉原手引草』で直木賞を受賞した松井今朝子さんの新刊です。弥次・喜多コンビでお馴染みの『東海道中膝栗毛』を書いた十辺舎一九を主人公にした長編小説。といっても、その『東海道中膝栗毛』が生まれる直前までを描いたところがミソ。そして、もうひとつのミソは……読んでからのお楽しみ。
駿河の同心の家に生まれた重田与七郎(後の一九)は若くして家督を弟に譲って旅に出る。仕えていた駿河奉行の新任地大坂にたどり着き、しばらく仕官した後、材木問屋の養子になり浄瑠璃を書き始めるが、やがて夫婦関係が破綻して江戸を目指す。江戸では質屋の養子に入り黄表紙作家になるが、またしても夫婦破綻、新たな旅に出るところで話は終わる。
一箇所に落ち着けず、行き詰ると旅に出たくなる与七郎の性分が2度の離縁を招き、やがて旅物語『東海道中膝栗毛』の成功につながることになります。話は淡々と進みますが、終盤に意外な仕掛けがわかり、もう一度ページをめくり直してみたくなるところがこの小説の醍醐味。時代小説に一風変わった味わいを添えています。
版元の蔦屋重三郎、作家の山東京伝、曲亭馬琴、式亭三馬など、江戸を代表する文人が登場するのも興味深く、江戸時代の出版事情について理解が深まりました。
ちなみに、十辺舎一九の辞世の句は一九らしくとてもユニークです。
この世をば どりゃお暇(いとま)と線香の煙と共に灰さようなら
「お暇に」とする説もあるようですが、この本に書いてあったまま記しておきます。
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コメント
松井今朝子さん!
ポプラ文庫の「今朝子の晩ごはん」を読んだばかりです。
いや~面白い方ですね~。
巻末に萩尾望都さんの漫画「進化論のガラパゴス」
が載っていて、これも最高!
お勧めです。
投稿: mymy | 2008/05/11 23:06
>mymyさん
『今朝子の晩ごはん』はブログをまとめたものなんですってね。さっそくお気に入りに登録しました。
萩尾さんとガラパゴスにいらしたんですね。ブログの旅行記とあわせて、萩尾さんの漫画も読んでみたいです。教えてくださって、ありがとうございました。
投稿: Tompei | 2008/05/12 08:14