『仮想儀礼』(篠田節子)
田辺聖子さんの宇治十帖を読んでいる最中に図書館から予約本用意のお知らせがあり、「雅やかな世界の恋模様に心ときめかせているのに、新興宗教の話なんてタイミング悪すぎ」と思いつつ、分厚い単行本上下2冊を借りてきました。読み通す気力はないまま、せめて最初の部分くらい目を通そうと思って本を開いたら……結局、最後まで読んでしまいました。
篠田さんの小説はひさしぶり。篠田節子の代表作と言えば『女たちのジハード』ということになりそうですが、私は『聖域』『弥勒』『ゴサインタン』あたりの作品が好きなので、書評を読んでこの『仮想儀礼』にも興味を持った次第。仕事を失くして食うに困った2人の男が新興宗教を立ち上げる話です。
あらすじは――正彦(教祖)と矢口がお金儲けのために始めた聖泉真法会のもとに次第に信者が集まってくる。まずは、「生きづらい」系の若者たちと、悩みを抱えてご利益を求める主婦たち。やがて、資金や土地、建物を提供する企業や財産家が現れて、聖泉真法会は大きく発展する。ところが、既成の大教団や政治家にも繋がる脱税事件に巻き込まれて破綻し、信者も一斉に離れる。再び振り出しに戻った聖泉真法会には女性信者数名が残り、正彦や矢口と集団生活を続けるうちにいつしかカルト化していく。
聖泉真法会が発展していく過程が描かれる上巻はテンポよく進みますが、破綻後の集団生活からラストに至る展開はかなり重たくしんどいです。でも、著者が書きたかったのは後半のほうではないでしょうか。実体のないまやかしの神が女性信者の中で実体化していき、教祖も意図していない怪しげな宗教に変貌し、制御できなくなっていく過程は不気味で恐ろしい。世間を騒がせたいくつかのカルト教団が脳裏に浮かび、「こういう側面もあったのかも……」と思えるほど、リアルで説得力がありました。
「神を必要とする者が心の内に神を作り上げていく」(本文から引用)ことが信仰というものなのでしょうか。人の心や宗教について深く考えさせられ、「読まずに返却しないでよかった」と思いました。
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コメント
偶然にも私も篠田さんの「砂漠の船」を読み終えたばかりです。
こちらは家族崩壊に近い小説なのですが、やはり日本の社会が持つ歪みが皮肉に描かれていて面白かったです。
篠田さんの小説って、他には「女たちのジハード」しか読んでいなかったのですが、面白いですね。
Tompeiさんの読まれた「仮想儀礼」もチェックしておかなければ^^
投稿: ぶんぶん | 2009/03/07 14:20
>ぶんぶんさん
コメントありがとうございます。
>偶然にも私も篠田さんの「砂漠の船」を読み終えたばかりです。
それは奇遇ですね! 一時は新刊が出ると読んでいましたが、そのうち遠ざかってしまいました。『砂漠の船』も未読です。この機会に篠田さんの本を続けて読んでみようかしら。その前に源氏を読了しなくては!(^^ゞ
この『仮想儀礼』は分厚い本2冊で手を出しにくいけれど、読み始めるとサクサク読めるので、宗教の話が嫌いでなければ読んでみてくださいね。
投稿: Tompei | 2009/03/08 00:48