明治座 五月花形歌舞伎
旅行記に戻る前にもう一つ、先週出かけた歌舞伎のことを書いておきます。
第3回歌舞伎教室は明治座。大御所勢揃いの歌舞伎座ではなく、中村勘九郎・七之助兄弟、市川染五郎、片岡愛之助と若手人気役者揃い踏みの明治座を選びました。そういえば、某読者より「歌舞伎教室って何?」という質問がありましたが、とくに深い意味はありません。歌舞伎見物と言うより、アカデミックに聞こえるでしょ?(笑) 歌舞伎を知るために10回は続けようと思います。それ以降も観るとしたら、趣味の世界に突入ね。
今回は初めてイヤホンガイドを借りました。これが大正解! お富・与三郎の『与話情浮名横櫛』はともかく、一幕目の『実盛物語』はまったく知らない話なのに、内容がよくわかって楽しめました。演目のあらすじ、歴史や背景、役者の名、歌舞伎の約束事、音楽や唄、衣装や髪型など、さまざまなことをタイミングよく説明してくれます。幕間にも次の演目の説明や出演者のインタビューまで聞けます。"歌舞伎教室"では毎回借りることにしましょう。
今回楽しみにしていたのは二幕目のお富さんでしたが、実は『実盛物語』のほうが面白かった。勘九郎さんの実盛がすごくよかったんです。見た目も格好よいし、内面からにじみ出る温かさに打たれました。「お父さんに似てるなぁ」としみじみ……勘三郎さんの歌舞伎は一度観ただけなのに姿が目に浮かびました。
この演目は子役が活躍しますが、可愛くて上手で微笑ましかった。歌舞伎の楽しみは、子役がやがて成人して一人前の役者になり、結婚して子供が生まれて、その子が舞台に立つようになって――と、役者の生涯、血の繋がりを見守り、芸の成長や継承を見届けるところにもありそうですね。
そして、『与話情浮名横櫛』。染五郎さんの与三郎は「水もしたたる」という形容がぴったりの若旦那、七之介さんのお富は粋で色っぽい芸者上り。二人がお互いに一目惚れする羽織落としの場面が印象的でした。二人の仲がばれてめった斬りにされる与三郎は痛々しい。が、傷だらけの姿がまた美しい。
有名な『玄冶店』の場面。歌舞伎では普通、『源氏店』と書いて「げんやだな」と読ませるそうですが、明治座は玄冶店があった人形町から近いので、この公演では本来の『玄冶店』となっています(右の写真は、人形町の玄冶店跡)。「もし、ご新造さんえ、おかみさんえ、お富さんえ、イヤサお富、久しぶりだなあ」 本物を初めて聞きました。来るぞ来るぞ、という興奮がいい。でも、意外にあっさりしていました。
やっぱりビジュアルが映える若手の舞台はいいな。結局、ミーハーな私。勘九郎さんご出演予定の「真田十勇士」が気になります。来年だけどね。
そうそう、明治座の前に水天宮(左)ができていてびっくりしました。社殿建替え工事のため、3月から移転しているそうです。まったく知りませんでした。もうこの社殿(右)を見ることはないんですね。
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しがねえ恋の情が仇(あだ)、命の綱の切れたのを、どう取り留めてか木更津から、めぐる月日も三年(みとせ)越し、江戸の親には勘当受け、拠所(よんどころ)なく鎌倉の、谷七郷(やつしちごう)は喰い詰めても、面(つら)へ受けたる看板の、疵が勿怪(もっけ)の幸いに、切られ与三(よぞう)と異名を取り、押借り強請(ゆす)りも習おうより、慣れた時代の玄冶店、そのしらばけか黒塀に、格子造りの囲いもの、死んだと思ったお富とは、お釈迦様でも気がつくめえ。
(『玄冶店』 与三郎の台詞)
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