2008/07/10

『耳と文章力――上手な文章を書く秘訣』(丸山あかね)

耳と文章力―上手な文章を書く秘訣
耳と文章力―上手な文章を書く秘訣

 音楽の「絶対音感」のような「絶対文章感」なるものはあるのか、を考察したエッセー。著者の造語「絶対文章感」とは、文章に対する天性の才能のこと。文章力は生まれつきの才能なのか、後天的に獲得できるものなのか、を作家や学者とのインタビューを交えつつ探っています。

 国語学者の大野晋、言語学者の外山滋比古、作家のなかにし礼、重松清、小池真理子、清水義範、大学で論文を指導する教師、聴覚障害者の言語教育に携わる大学教授、ATOKの開発会社の社員など、言葉に関わる人々のさまざまな意見が興味深く面白い。著者の結論は、

「絶対文章感」はない。けれど感受性をも含めた「文章感」は存在する。

であるけれど、その是非よりも、この問題について考える機会を与えられたことに意味がありそうです。

 とくに印象深いのは、「文章のリズムをつかむには、文章を『耳で読む』ことが必要」という点。意味だけ拾うのは『目で読む』ことで、『耳で読む』には音読するか、心の中で声を出して読まなければならないとのこと。好みの作家の文章を耳で読み、徹底的に読み込んで文章リズムを体得して、書きたいことをそのリズムに乗せて書く――外山氏推薦の文章上達法です。あとは、毎日書いて書いて書きまくるしかないらしい。

 ブログを始めて4年少々、更新頻度が低いとは言え、800近くの記事を書いているのに、一向に文章力がつかないのは絶対文章感がないからに違いない。ネット上で「いいな」「うまいな」と感じる文章に出会うと、どこが違うのかしばし考えてしまいます。言いたいことがはっきりわかるのは最低条件。その人独自のリズムがあって、押し付けがましくなく自然に個性が滲み出ていて、喜怒哀楽はストレートなのに冷めた目が同居していて、発想が柔軟かつ斬新で比喩がユニーク……そんな文章に惹かれます。やっぱりセンスなのかな?

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2008/06/23

『まんが 医学の歴史』(茨木保)

まんが医学の歴史
まんが医学の歴史

 現役の医師で漫画家の著者による漫画版医学史。何かの書評を読んで図書館に予約を入れたものの、いざ順番が回ってきたら「医学史なんて興味があるわけじゃないのに、何故、予約を入れちゃったんだろう」と思ったのが正直なところ。ま、折角だから、ちょっと中味を拝見……と思って読み進めたら、これがとても面白くて、あっという間に読み終わりました。

 「医学の進歩に大きな影響を与えた出来事と人物に焦点をあてて、太古の昔から21世紀の現代までの時の流れをオーバービューしたい」という著者の言葉のとおり、古代の宗教的・魔術的治療から現代のクローン、ES細胞、ⅰPS細胞まで、わかりやすくまとめてあります。専門的で理解できない箇所もありましたが、医学の大きな流れがつかめて満足。医学の発展に貢献した人物たちの生き方はそれぞれに興味深く、漫画に助けられて楽しく読めました。

 江戸時代の日本における医学の進歩、明治時代の北里柴三郎、野口英世についてもよく理解できました。野口英世が生前に発表した医学研究の多くは後に誤りと判明していること、苦労人の反面、浪費家だったことなど、子供時代に読んだ伝記では知りえなかったことがわかって「へぇ!」の連続です。

 医学の歴史を振り返ることは人と科学について考えることであり、人の命、人生を考えることだと感じました。漫画の最後はアインシュタインの次の言葉で締めくくられています。

我々が進もうとしている道が正しいものであるかどうか、神は前もって教えてくれはしない。

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2008/05/18

『流星の絆』(東野圭吾)

流星の絆
流星の絆

 JCBのポイントがたまったので、東野圭吾の新刊を注文しました。このシステムのおかげで、たまに単行本が買えるのは嬉しいかぎり。

 一気読みして数時間で読了……面白い本ほど関わる時間が短いのは皮肉なものです。私にとって、東野作品は現在、打率も一気読み度もナンバー1。読みやすい文章、先が気になるストーリー展開、丁寧な人間描写、ミステリーとしてのカタルシスがちょうどいい加減に配分されています。しかも、この『流星の絆』は後味もいい。ちょっときれいにまとまり過ぎのように感じる程です。

 幼くして両親を殺害された3人の兄弟が時効直前になって真犯人をつきとめる話――こう書くと、ミステリーとしてはとくに目新しさはありませんが、ハヤシライスの味がキーポイントとなって展開していく点や小物の使い方など、うまいなぁと感心します。それに、「流星の絆」というタイトルが効いています。

 ああ、ハヤシライスが食べたい! 隠し味にお醤油を入れたハヤシライスね。

追記(2008年7月23日):
 早くもこの小説のテレビドラマ化が決まったそうです(10月からTBS系、金曜22時)。脚本は宮藤官九郎、兄弟は上から二宮和也(嵐)、錦戸亮(NEWS)、戸田恵梨香。クドカンがどう料理するか、興味津々だし、二宮くんと錦戸くんの演技派ジャニーズコンビの活躍も楽しみです。

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2008/05/11

『そろそろ旅に』(松井今朝子)

そろそろ旅に
そろそろ旅に

 ひさびさに小説を読みました。昨年『吉原手引草』で直木賞を受賞した松井今朝子さんの新刊です。弥次・喜多コンビでお馴染みの『東海道中膝栗毛』を書いた十辺舎一九を主人公にした長編小説。といっても、その『東海道中膝栗毛』が生まれる直前までを描いたところがミソ。そして、もうひとつのミソは……読んでからのお楽しみ。

 駿河の同心の家に生まれた重田与七郎(後の一九)は若くして家督を弟に譲って旅に出る。仕えていた駿河奉行の新任地大坂にたどり着き、しばらく仕官した後、材木問屋の養子になり浄瑠璃を書き始めるが、やがて夫婦関係が破綻して江戸を目指す。江戸では質屋の養子に入り黄表紙作家になるが、またしても夫婦破綻、新たな旅に出るところで話は終わる。

 一箇所に落ち着けず、行き詰ると旅に出たくなる与七郎の性分が2度の離縁を招き、やがて旅物語『東海道中膝栗毛』の成功につながることになります。話は淡々と進みますが、終盤に意外な仕掛けがわかり、もう一度ページをめくり直してみたくなるところがこの小説の醍醐味。時代小説に一風変わった味わいを添えています。

 版元の蔦屋重三郎、作家の山東京伝、曲亭馬琴、式亭三馬など、江戸を代表する文人が登場するのも興味深く、江戸時代の出版事情について理解が深まりました。

 ちなみに、十辺舎一九の辞世の句は一九らしくとてもユニークです。
  この世をば どりゃお暇(いとま)と線香の煙と共に灰さようなら
「お暇に」とする説もあるようですが、この本に書いてあったまま記しておきます。

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2008/02/16

『謎解き 広重「江戸百」』 (原信田 実)

謎解き広重「江戸百」 (集英社新書 ビジュアル版 4V)
謎解き広重「江戸百」 (集英社新書 ビジュアル版 4V)

 昨年読んだ本ですが、先日、本物の「江戸百」を見る機会に恵まれたので、改めてざっと読み返しました。

 「江戸百」とは江戸時代の浮世絵師、歌川広重の最後の大作「名所江戸百景」のこと。広重が還暦直前から62歳で死ぬまでの2年半の間に制作した全118枚の名所絵シリーズです。

 この本ではそのうち45点の絵について謎解きがされています。「江戸百」が発表された安政3年(1856年)から5年にかけての江戸は、安政江戸地震(安政2年10月)の壊滅的被害から復興に向かっていた時代であり、「江戸百」の多くは江戸の復興を伝えている、というのが著者の考えのようです。

 例えば、表紙になっている「金龍山浅草寺」。夏に出版された絵なのに雪の風景が描かれているのは、地震で曲がった五重塔が修復されておめでたいというメッセージを込めて紅白の色彩にした、など。仮説に過ぎないとは言え、当時の時代背景がわかって興味深い本です。巻末に全ての絵の縮小版がカラーで掲載されているのも嬉しいかぎり。

 この「江戸百」が千代田区立九段生涯学習館で公開されている(本日16日まで)との情報を得て、今週行ってきました。個人収集家の展示会のようですが、全部揃っているところが素晴らしい。本の内容を思い出しながら、1枚1枚じっくり鑑賞できました。お江戸オフで訪ねた場所もかなりあり、現在のようすと比べながら見るのも楽しいし、これから歩く場所を考えるのもまた楽しい。

 展示会のことを教えてくださった惑さんの記事と、別の日に訪れたぶんぶんさんの記事にTBを送らせていただきます。(2月18日追記:桜桃さんの記事にもTB送信)

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2007/11/15

あの日の浅草、銀座、日本橋

地図物語 地図と写真でたどるあの日の浅草―昭和26年から30年代の思い出と出会う (地図物語)
地図物語 地図と写真でたどるあの日の浅草―昭和26年から30年代の思い出と出会う (地図物語)
あの日の銀座―地図と写真でたどる 昭和25年から30年代の思い出と出会う (地図物語)
あの日の日本橋―地図と写真でたどる 昭和25年から30年代の思い出と出会う (地図物語)

 書店で見つけた武揚堂の「地図物語」シリーズ3冊……図書館で借りてきました。サブタイトルは「昭和25年から30年代の思い出と出会う」。最近、こういう"懐かしもの"にめっきり弱くなりました。

 私の記憶に残っているのはほとんど40年以降なので少しタイムラグはありますが、懐かしい写真、興味深い写真が満載でいつまで眺めていても飽きません。どの地区も震災と戦災から復興して今日の姿につながることを、写真が雄弁に語ってくれます。

 付録の復刻地図がまた素晴らしい。原図は昭和25、6年に作成された火災保険特殊地図。ビルや商店はもちろん、個人宅の名前まで入っている詳細を極めたものですが、なんと一人の地図職人が一軒一軒現地を歩いて作成したそうです。

 50年以上前から変わらないもの、変わってしまったもの、さまざまで、感慨深い思いがします。また、昭和25、6年当時はまだ多数のビルがアメリカに接収されていたり、浅草寺の雷門はなかったり(戦災で焼失)、戦争の爪痕が色濃く残っていることが印象的。

 掲載写真のうち、今はない建物で私の記憶にあるものをピックアップしておきます。一つ一つ思い出話を始めると止まらなくなる危険性あり(笑)。
【浅草】
国際劇場:昭57閉館、<現>浅草ビューホテル
新世界:六区にあった「娯楽の殿堂」、昭44廃業
仁丹塔:十二階を模した浅草のランドマーク、昭61解体
【銀座】
日劇:昭56閉館、<現>有楽町マリオン
朝日新聞社:<現>有楽町マリオン
テアトル東京:映画館、<現>ホテル西洋銀座(昭62開業)
レストラン・コックドール:<現>銀座ワールドタウンビル
【日本橋】
白木屋:のち東急百貨店、<現>コレド日本橋(2004開業)
帝国製麻ビル:のち大栄不動産(日本橋北詰の赤煉瓦のビル)

 昭和30年代にタイムスリップして、首都高のない東京を歩いてみたいなぁ。都電を乗り継いであちこちに行ってみたい。石造りの数寄屋橋を渡ってみたい。

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2007/08/19

『楽園』(宮部みゆき)

楽園 上 (1)
楽園 上
楽園 下

 『模倣犯』に登場したフリーライター前畑滋子を主人公にした長編現代ミステリーと聞いて、とっておきの図書カードで上下2巻を購入。むさぼるように読み始めました。

 読み出しの手応えは上々。「こういう小説を待っていたのよ」と思いつつ、夢中になって読み進みましたが、下巻途中から徐々に失速。読み終わってみれば、「思ったほどではなかったかな」という印象です。うーん、残念!

 身内に行状のよくない人物がいたら、家族はどうすればいいのか――テーマは重いし、考えさせられるけれど、ミステリーとしてのカタルシスが足りないように感じました。宮部作品に寄せる期待が大きすぎるからかもしれません。最後にどんでん返しがあるんじゃないか、とつい期待してしまう。いえ、どんでん返し=いいミステリーというわけではないけれど、終盤のクライマックスがミステリーを左右することは確か。この小説はそのあたりが弱い気がしました。

 交通事故死したサイコメトラーの少年が生前に描いた絵が話のキーになっていて、その絵の検証や少年の家族については多くのページを割いている反面、殺人事件の舞台である土井崎家の人々については傍から語られるばかりで本音が見えないので、すっきりしないのも難点。土井崎家の家族の歴史、一人一人の心情を詳しくわかってこそ、『楽園』というタイトルが生きてくるように思うのですが……。

 こんなふうに不満を感じてしまうのも宮部作品だからこそ。過去の作品が偉大であればあるほど、作家ってたいへんですね。

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2007/07/12

『かめきちパパの365日★レシピ』(亀田 保)

かめきちパパの365日★レシピ (e-MOOK)
かめきちパパの365日★レシピ (e-MOOK)

 かめきちさんのブログ「SAKE TO RYOURI」がついに本になりました! 今日の朝刊に広告が出ていて、思わずニンマリ……さっそく書店で買い求めてきました。

 素敵な本に仕上がって、もう嬉しくてたまりません。かめきちさんは、ブログを始めて間もない頃からのお仲間なので、格別の嬉しさです。これまで類似本を見かけるにつけ、「かめきちさんのレシピ本もできればいいなぁ」と思っていました。と言っても、お会いしたこともないので、本に出ていたお写真を拝見して、何だか不思議な感じです。

 かめきちさんは奥様やお嬢ちゃんのために作ったお料理をブログに毎日更新していらっしゃいますが、この本にはその中から300のレシピが掲載されています。ブログ名物の奥様とお嬢ちゃんの楽しいコメントも載っていて、ファンには嬉しいかぎり。

 肉、魚、野菜のメインディッシュ、ご飯、麺類、副菜などのレシピのほか、「10分以内にできるおかず」、「残った食材で1品」もある充実ぶりです。充実しすぎていて、細かい字がちょっときついと感じてしまう我が身が悲しい(笑)。

 今までもかめきちさんのレシピには随分助けていただいたけれど、この本を利用して、まだ作ったことのないものにも挑戦してみたいと思います。

 かめきちさん、レシピ本の出版、おめでとうございます。「継続は力なり」がこういう形に実を結んで、本当によかったですね。お店オープンの夢も絶対実現させてください。いつの日か、かめきちさんのお店のお客になれますように! 「発売されました!!」の記事にトラックバックを送らせていただきます。

追記(2008年7月8日):
 第2弾が発売されました!
かめきちパパの楽うま★毎日レシピ [e-MOOK] (e-MOOK)

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2007/06/28

『江戸博覧強記』

江戸博覧強記 上級編 (江戸文化歴史検定公式テキスト 上級編)
江戸博覧強記 上級編 (江戸文化歴史検定公式テキスト 上級編)

 江戸文化歴史検定の公式テキスト「上級編」……とりあえず入手しました。400余ページ、厚さ2センチ以上、2段組にぎっしり江戸に関する知識と情報が詰まっています。

 「博覧強記」という名に恥じない、ものすごい詳しさ! 江戸時代のあらゆる事柄を懇切丁寧に、痒いところに手が届くように、これでもかこれでもかと解説してあります。本棚に並べておいて、江戸について何か調べる時に使う参考書って感じ。これを全部暗記するなんて絶対無理、全部目を通すのもたいへんそう。

 江戸検定1級の問題の5割はこのテキストから出題されるとのこと。5割というのが微妙です。最終的にはやっぱり、長年培った江戸通の知識が物を言いそうですね。私のようなにわか江戸好きの付け焼刃の知識では太刀打ちできないのは確かです。

 1級は4択のほか、語句穴埋めの記述式問題もあるらしい。しかも合格ラインは正解率80%以上。何やら突然の狭き門です。そうそう、1級合格者は江戸東京博物館常設展にフリーパスなんですって。名実共に江戸のエキスパートのお墨付きをもらえるんですね。

 参加することに意義があるとは言っても、かすりもせずに落ちるのは悲しい……せめて、当たって砕けたい。砕け甲斐があると思えるところまで準備できたあかつきには受験してみたいと思います。

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2007/06/11

『打ちのめされるようなすごい本』(米原万里)

 昨年、亡くなられた米原さんの書評集。2001年から週刊文春に掲載されていた「読書日記」と、新聞や雑誌に掲載された数々の書評をまとめたものです。

 「打ちのめされるようなすごい本」とは、まさにこの本のこと。米原さんのすさまじい読書量(1日7冊読んでいたらしい!)、豊富な知識量、的確な表現力、芯の通った生き方にただただ圧倒されました。読んでみたくなった本、多数……メモしておかなくては!

 読書日記には癌を告知された日の衝撃がさりげなく書かれ、あらゆる癌治療本を読んで自ら治療を試した詳しい記録も残されていますが、感傷に流されずに淡々と綴った文章から「生きたい」という熱い思いが伝わってきて胸が痛みました。今さらながら早世が惜しまれます。

 米原さんのエッセイは何作か読んでいますが、未読のものもあるはず。この機会に全部読みたくなりました。

打ちのめされるようなすごい本

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2007/06/05

『あなたがパラダイス』(平 安寿子)

あなたがパラダイス
あなたがパラダイス

 更年期の女性をめぐる三話のオムニバス小説。そして、沢田研二賛歌でもあります。何かの書評でこの本のことを知って、平安寿子(たいら・あすこ)さんの小説を初めて読みました。

 いやー、面白かった! まさに「そこ」にいる私には思い当たることばかりで、時に切ない程でしたが、くすりとしたり、ほろりとしたりしながら読んでいるうちに、元気がみなぎってきました。同世代の女性におすすめ。とくに、ミーハー心をお持ちの方はすごく共感できると思います。長年のジュリーファンにはたまらないでしょうね。

 独身のまま更年期を迎えて、初めて恋心を知る敦子。実の両親と夫の両親が相次いで倒れて、介護問題に直面するまどか。不妊のため離婚した後、更年期障害が出て戸惑う千里。それぞれの本音がユーモアを交えて語られ、「うんうん、わかるわかる」とうなずくことしきり。三話ともジュリーの存在が絡んでいますが、ファン心理が実に丁寧に書かれていて、これまた「そうなの、そのとおりっ!」と興奮しました。

 ちなみに、私は小学校時代、ジュリーのファンだったけれど、それは淡いあこがれで、この小説のジュリーに当たるのはヒデキであり、宝塚であり……。ミーハーに関しては、「バカだよなぁ」と自覚しつつずっとやめられずにいますが、この小説を読んだら「ミーハーも捨てたもんじゃない」と思えました(笑)。コンサート会場や劇場はまさしくこんな場所なのです。

ここは、パラダイス。生きてきたこと、生き抜いていくことへのご褒美がもらえる場所。だから何にも考えず、ただ夢中になれる。
 たまにパラダイスでご褒美をもらいながら、更年期や老いに堂々と立ち向かおうじゃないの……つらくてたいへんなのは私だけじゃないんだから。そんなふうに思わせてくれた小説でした。
更年期だけど、先がある。それも、さほど長くはない。だから、若かった頃の何倍も、生きていることを愛したい。

ロイヤル・ストレート・フラッシュ
ロイヤル・ストレート・フラッシュ

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2007/05/25

『食品の裏側』(安部 司)

 サブタイトルは「みんな大好きな食品添加物」――元・食品添加物商社勤務の著者が、食品添加物にまみれた食品業界の実態を明らかにした本です。ロハス生活を実践中のAyakokinさんの記事に触発されて読みました。

 いやー、まさかここまで、食品添加物に依存しているとは思いませんでした。逆に言えば、化学物質の粉の威力を見くびっていたというべきか。例えば、インスタントラーメンのとんこつスープは、安い焼き塩に「化学調味料」と「たんぱく加水分解物」(とんこつエキスなど)と「香辛料」と「酸味料」と「増粘多糖類」(とろみをつける)を加えて、ゴマや乾燥ネギを入れれば出来上がりなんですって……びっくりするやら、妙な感動を覚えるやら。

 「インスタントラーメンなんて、ほとんど食べないから大丈夫」と思ったあなた、ハムやソーセージは食べているでしょう? 明太子が大好物では? 明太子、漬物、練り物、ハム類は添加物大量使用の食品だそうですよ。

 ちなみに、著者の安部氏は、クズ肉に大量の添加物を投入して作ったミートボールを我が子が喜んで食べているのを見てショックを受け、会社を辞めたそうです。自分が開発した自慢の一品なのに、家族には食べさせたくないものだったというわけ。

 そうは言っても、もはや食品添加物を避けては暮らしていけません。添加物のおかげで、いつでもどこでも食べたいものが食べられる便利な生活を享受しているのも事実です。まずは食品添加物のことを知り、食品購入の際には原材料をいちいちチェックすること。手間を取るか、添加物を取るかを考えて、添加物過多にならないようにバランスをとること。著者はそう勧めています。

 結局、手間をかけてお料理を作ることが基本のようですね。下ごしらえが面倒だからとカット野菜を買ってくれば、消毒剤や漂白剤が使われている。味付けが面倒だからと○○のたれやドレッシングを使えば、諸々の添加剤が入っている。心しておきたいと思います。添加物2~3割減を目指してみよう。

 それにしても、添加物の問題以前に、野菜や果物は農薬の心配、牛肉や鶏肉は病気の心配、魚介類は汚染の心配……絶対安全な食べ物ってあるんでしょうか。ある程度の「鈍感力」がないと何も食べられなくなりそうです。

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2007/05/10

『黒蜥蜴』原作と宝塚歌劇

 GWに観た宝塚の『黒蜥蜴』(本題:明智小五郎の事件簿)があんまりヘンテコリンでキッカイな話だったので、江戸川乱歩の原作を読んでみる気になりました。

 乱歩の『黒蜥蜴』はグロテスクで妖しさいっぱいだし、ストーリー展開は荒唐無稽でありえないけれど、そこにこそ魅力があることを納得できる小説でした。講談調の文体に誘われて乱歩の世界に入り込んだら、とやかく言わずにどっぷりひたった者勝ちという感じ。

 そこに戦争やら結婚やら兄妹再会やらのヒューマンな要素を持ち込んで、それで共感を得ようというのはどこか違うような気がしますが……。あ、宝塚の話です。黒蜥蜴ってビジュアル的には宝塚っぽいけれど、実は「夢とロマンの」宝塚とは対極にあるので、結局、あんなふうに中途半端になってしまうのかもしれません。

 どうせやるなら、黒蜥蜴を主役にして男役にやらせて、もっとアブナイ世界を展開して欲しかった(爆)。オサ(春野寿美礼)にはナルシストな黒蜥蜴が似合いそうです。

 ついでに、三島由紀夫の戯曲も読んでみました。三島由紀夫は子供の頃、この小説を読んだのがきっかけで舞台化を思いついたとか。さすがに日本語が美しく格調高い。やはり一度は美輪明宏の黒蜥蜴を観なくては!

 実は私、小学生時代に江戸川乱歩の少年探偵団シリーズを愛読していました。明智小五郎や怪人二十面相に読書の楽しさを教えてもらったようなものです。何十年ぶりかに乱歩ものを読めたのも宝塚のおかげ……と感謝しておこう(笑)。

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2007/04/15

『吉原手引草』(松井今朝子)

吉原手引草
吉原手引草

 週刊誌の書評を読んで、図書館に予約を入れておいたのに、なかなか順番が回ってこないので、とうとう買ってしまいました。来週、吉原界隈を歩く予定なので、その前に読んでおきたかったのです。

 吉原一を誇った花魁・葛城の失踪事件を、葛城をめぐる人物16人が語っていき、徐々に真相が明らかになる時代物ミステリー。いや、ミステリーという形式を借りた時代小説というべきか。謎を追う面白さもさることながら、吉原に生きる人々(遊郭の主、番頭、見世番、遣手、引手茶屋の内儀、幇間、女衒など)や客たちの生の言葉によって、特異な世界の様々な事情が語られるのがたいへん興味深く、一気に読み終えました。

 真相がわかったところで、もう一度最初から読んでみたいと思える小説。肝心の葛城の語りはなく、読み手の想像に委ねられているのが余韻を誘うところでもあり、多少もどかしくもあります。

 江戸時代の遊郭・吉原についてはほんの基本的な知識しかなかったけれど、これを読んだら知識がかなり増えたうえ、別世界だと思っていた吉原にいくらか近づけた気がします。それぞれの人物のその立場特有の言葉遣いを読んでいると、声が聞こえ、顔や姿が浮かんでくるから不思議。いつしか私も吉原に迷い込んでいるのでした。

追記(2007年7月18日):
 松井さんがこの作品で直木賞を受賞されました。納得!の直木賞です。おめでとうございます!

関連記事:
『そろそろ旅に』(松井今朝子)

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2007/03/30

『グレート・ギャツビー』(フィッツジェラルド著・村上春樹訳)

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)
グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

 随分前に読んで記録を残しておきたいと思いつつ、時間が経過してしまいました。村上氏の次の翻訳本『ロング・グッドバイ』が話題になっている今頃になってアップします。

 この『グレート・ギャツビー(華麗なるギャツビー)』はずっと昔、映画も観たし、宝塚の舞台も観たし、別訳の原作も読んでいますが、だからこそ村上春樹の翻訳に興味を持ったようなわけです。

 まず、長めの「訳者あとがき」から読みましたが、これが非常に面白い。村上氏の『グレート・ギャツビー』に対する格別の思い入れと、翻訳に際しての方針が熱く語られていて、この本を読む意欲と期待が高まりました。何と言っても、あの村上春樹が「人生で最も重要な一冊」として挙げている本なのです!

 村上氏の翻訳の方針
①「現代の物語」にする
   古風な言い回し、時代的な装飾をできるだけ避ける
   会話に命を持たせる
②文章のリズムを重視する
   フィッツジェラルドの文章は美しいリズムが特徴
*「小説家であることのメリットを可能な限り活用」して翻訳

 以上のことを念頭に置いて一読したところ、確かに、古めかしい表現やいかにも翻訳らしい文章はなく、今までの訳よりは読みやすいように感じました。そして、1920年代のアメリカのギャツビーがやや近しい存在に思えたような……あくまでも「ような」というレベルですが……。翻訳物の純文学から遠ざかっている私にはなかなか手強かった、というのが正直な印象です。

 今までの訳とどこがどう違い、どんな工夫がされているか、とても興味がありますが、全てを検証する気力も時間もありません。最初の1~2ページだけ原文と訳文を読み比べてみたら、原文の構造を重視せずに語順を変えたり、段落を区切ったりしていることが目に付きました。また、言葉を補ったりして、かなり意訳をしている箇所も見られます。

 自分のための覚え書きとして、冒頭と結末の部分の原文と3人の翻訳者による訳文を記録しておきますので、興味のある方はご覧になってください。

続きを読む "『グレート・ギャツビー』(フィッツジェラルド著・村上春樹訳)"

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2007/03/17

『大江戸神仙伝』(石川英輔)

 現代の中年男性が19世紀初めの江戸にタイムスリップしてしまう小説。現代人から見た江戸の町のようすや庶民の暮らしぶりが丁寧に描かれ、自分も江戸に行ったような気持ちになって楽しめます。

 主人公の速見洋介はタイムスリップした江戸で、芸者いな吉と所帯を持って江戸暮らしを始めます。いい人に囲まれ、たいした苦労もなく江戸に融け込んでしまうあたり、ストーリーの甘さは否めませんが、江戸の見聞録としての面白さがそれを上回ります。

 科学畑出身の石川氏はこの小説を書くために100冊以上の関係書を読んで、時代考証の細部まで調べたとのこと。そのため、時代背景や風俗や言葉が正確なので、江戸のテキストとして読むこともできそうです。ちなみに、石川氏はこのシリーズの執筆がきっかけとなり、最近は江戸風俗研究家としても活躍しています。

 ただ気になるのは、著者の江戸時代への思い入れと、明治以降の日本の欧米化に対する批判が随所に顔を出すこと。考えそのものにはある程度共感できるけれど、たびたび登場するので鼻白みます。が、それでも、「現代人が体験する江戸時代」という設定がとても魅力的なので、続く『大江戸仙境録』『大江戸遊仙記』と読み進めています。「洋介さん、ちょっと調子に乗りすぎですよ」と思いつつ……。

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2007/01/25

『使命と魂のリミット』(東野圭吾)

 東野圭吾の新刊です。だいぶ前に読み終えたのに、感想を書くタイミングを逸していました。

 病院を舞台にした医療サスペンスだけど、読了後の印象はサスペンスというよりヒューマンドラマという感じ。犯人は最初からわかっているし、犯罪の動機や手法にやや無理があって、サスペンスとしては平板。東野作品の多くに見られる終盤のどんでん返しもありません。

 けれども、ラストまで一気に読ませる力と、読後の爽快感はやはり東野作品ならでは。主人公の医学研修生・夕紀の長年の疑念が、事件に巻き込まれることによって払拭される展開は見事です。問題の手術における西園教授の奮闘ぶりや手術後の会話には心を動かされました。

 映画やドラマにしたら、受けるのでは? 適当にはらはらして、最後に感動して、「医者はこうじゃなくちゃ」なんて言いながら、気持ちよく映画館を出られそう。西園教授は、今をときめく渡辺謙さんにお願いしたい!

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2007/01/06

『ぬるい生活』(群ようこ)

ぬるい生活
ぬるい生活

 更年期まっただなかの群さんが更年期について語ったエッセイ集です。今年最初に紹介する本がこれなのはビミョーな気持ちがしますが、年末に図書館の予約の順番がまわってきたのだから仕方ない。いえ、私にもぬるい生活を勧める神様の思し召しかもしれません。

 そうなんです、私、たぶん現在通過中。だから、おおいに身につまされて落ち込んだ……どころか、大笑いして元気づけられました。ご同輩にはお勧めです。

 例えば、階段状に襲ってくる老いについて、群さんはこう表現しています。

この階段は若いときと中年になったときと、段差や形状が違うような気がする。若いときの階段は段差も少しで、次の段差までがとても長い。(中略)ところが中年になってからの老いの階段は違う。段差が一メートルで足を置く部分が十センチくらいと逆になり、気をつけないと転げ落ちそうになる。もちろん一度、階段を下りてしまったら、前の段に上がることなどほとんど不可能なのだ。
ね、怖いほど思い当たるでしょう?

 ほかにも、精神の健康、顔の毛穴、老眼、ファッション、腹立ち、物忘れなどなど、思い当たることだらけ。ということは、「たぶん通過中」ではなく、「間違いなく通過中」ですよね。はい、潔く認めます。

 そして、諸々の問題を抱えた群さんが出した結論は、

私がいちばん必要だと納得したのは「品」である。
マイナス面に必要以上に抵抗するのではなく、考え方を変えて無理のないように対処する。そして、言葉遣いや立ち振る舞いに気をつけて、品のある女性を目指すということのようです。

 私も年齢を自覚しつつ、年齢による諸問題に振り回されずに、できるだけ前向きに、でも肩の力を抜いて、この時期を過ごしたい。ゆったりとしなやかに。

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2006/11/16

『わたしを離さないで』(カズオ・イシグロ)

わたしを離さないで
わたしを離さないで

 ひさしぶりの更新です。江戸検の後、内職に追いまくられているうちに風邪をひいてグズグズしていました。回復力がめっきり鈍くなった人生の秋です……。

 さて、『わたしを離さないで』は、私にとってひさびさの翻訳物(カズオ・イシグロ氏は日本生まれのイギリス作家)。本を選ぶ時の参考にしているサイト「WEB 本の雑誌」の「今月の新刊採点ランキング」コーナーで、採点員が全員満点をつけていたので、気になって図書館に予約を入れておいた本です。

 キャシーという名の「介護人」が、「ヘールシャム」という施設で過ごした少女時代を回想するところから小説は始まります。ごく普通の寄宿舎生活のように見えて、何かが違う謎めいた「ヘールシャム」での日々。「ヘールシャム」とはどんな施設なのか、「介護人」「提供者」とは何なのか……好奇心に駆られてどんどんページをめくってしまいます。

 謎解きを目的としたミステリーではないものの、謎を予感し、想像し、確信する過程にこそ、この本の醍醐味があるように思うので、興味のある方はこの先を読まずに、実際に本を読んでみてください! 以下、ネタばれあり。

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2006/09/20

『大江戸見聞録』

 江戸文化歴史検定(公式サイト)の公式テキストです。江戸検定については早くから興味を持ち、このテキストもいち早く入手したのに、ずっと本棚にしまいこんだままで、今頃ようやく読み終えました。新しもの好きで食いつくのは早いけれど、その興味が長続きしないのが私の悪いクセ。江戸検定への思いもしぼみかけていたのでした。

 ところが、先日の「お江戸オフ」によって、江戸モードがふたたび上昇。さらに、オフのお仲間のぶんぶんさん桜桃さんが相次いで検定受験宣言をされたので、私のお尻にも火がついたようなわけです。

 しかし、このテキスト、江戸時代にタイプスリップして江戸人と下町めぐりをするという一見軟派な体裁を取っている割に、ものによってはかなり詳しく説明してあって、思いのほか手強い。「こんなこと覚えられるわけない」とすでに脳みそが拒絶反応を起こしています。地区別の説明なので、それぞれの場所や項目、時代がつながりにくいのも難点。

 とは言え、日本橋、上野、人形町、向島、浅草など紹介されている町になじみのある私としては、現在の街を思い浮かべつつ、切絵図で確認しながら文章を追っていく作業自体はとても楽しい。どうも私は、江戸時代の社会や文化や風俗よりも、江戸から東京への街の移り変わりに興味があるようです。わが故郷、東京の街に愛着があるんです。

 さて、これから検定の申し込みをしよう。あと1ヵ月少々でどこまで覚えられるのか甚だ疑問だけど、まずは「参加することに意義あり」なのです。検定用の問題集も出版されているようなので、それも買わなければ! いいカモになっている気もしないではないけれど、ま、自分が楽しめればいいわよね。

 ぶんぶんさん、桜桃さん、お互いに頑張りましょう! 激励のトラックバックを送らせていただきます。

大江戸見聞録 (江戸文化歴史検定公式テキスト (初級編))

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2006/09/15

『名もなき毒』(宮部みゆき)

 お江戸オフをめざして、この数週間、宮部さんの『本所深川ふしぎ草紙』『初ものがたり』『平成お徒歩日記』などを読んでいましたが、一段落したので新刊を買い求めました。江戸から平成の世にひとっ飛び。

 この小説の主人公は『誰か』と同様、今多コンツェルン会長の娘婿、杉村三郎で、彼の一人称で語られます。実は私、『誰か』は宮部作品としては物足りなく感じたので、この続編を期待と不安と半々で読み始めました。

 ほとんど一気読みに近い状態で読み終えたのは、宮部さんの現代ミステリーではいつものこと。でも……『火車』『理由』『模倣犯』のように、「早く先を読みたい、でも終わってしまうのが惜しい」というもどかしい興奮には至らなかったのが正直なところです。

 宮部作品の魅力は、事件やストーリーそのものだけでなく、事件をめぐる人々(加害者、被害者とも)の心情が宮部さんの鋭くも温かい視線で細かく描写されることによって、登場人物たちに共感を覚え、人間の強さ、脆さ、やさしさ、哀しさなどなどを実感できるところにあると思います。一人称の小説だとその魅力が半減してしまうように思えて仕方ありません。

 そもそも、私は杉村さんにあまり感情移入できないんです。「見るからに恵まれていて苦労も不幸もを知らない」杉村さんが事件に首を突っ込むことによって、人間の「毒」を知っていくという展開があまり好きでないというか……。善良な家族、杉村さん一家だって、それぞれに心の毒を抱えているはず。

 私の思いとは裏腹に、杉村さんシリーズが続きそうな気配を感じる結末……うーん……。宮部さんは大好きな作家だからこそ、いろいろ勝手なことを書かせていただきました。

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2006/08/19

『赤い指』(東野圭吾)

 2週間のご無沙汰です。ちょっと日本を留守にしておりまして……と言いたいところですが、残念ながらそういうこともなく、淡々と日本の夏を過ごしています。この間、何冊か本を読みましたが、一番印象に残っているこの小説のことから書くことにします。

 東野圭吾の直木賞受賞第一作。ほかの東野作品のようにするする読めて、数時間で読了。しかし、重苦しくてつらくて、やりきれない話です。少女殺人事件を扱っているものの、ミステリーというより家族小説という印象。老親の認知症、介護、同居の問題、嫁姑の確執、中学生の息子の引きこもり、息子を溺愛する母親、家族の問題を見て見ぬふりをする父親など、現代の家族が多かれ少なかれ抱えている問題が浮き彫りにされており、心がひりひりして身につまされました。

 ひさびさに加賀刑事が登場する、加賀恭一郎シリーズ6作目でもあります。もちろん、加賀シリーズはこれが初めてでもまったく問題ありませんが、加賀の登場は東野ファンには嬉しい配慮と言えそうです。ラストを飾る加賀刑事と父親のエピソードは、「家族」がテーマのこの小説のサイドストーリーとして効果的。

 そつなくまとまっていて映像化しやすそうな話だけど、うーん、私はあえて見たくないかな……。

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2006/08/04

『天璋院篤姫』(宮尾登美子)

 2008年のNHK大河ドラマは『篤姫』に決まったそうです。原作はこの『天璋院篤姫』。このところ大奥びいきの私はこの小説を読んだばかりなので、今からとても楽しみです。

 これは、徳川13代将軍家定と政略結婚させられた薩摩島津家の篤姫の一代記。篤姫は家定の正室として、また家定の死後は14代将軍家茂の名目上の母として、江戸城の大奥を取り仕切ります。時は幕末……やがて幕府が崩壊し、大政奉還、江戸城明渡しに至る激動の時代を、篤姫は大奥にて迎えるのです。

 篤姫のドラマチックな人生に好奇心をかきたてられ、歴史の渦に翻弄されながらも自分を失わず聡明に気高く生きた篤姫の姿に引き付けられ、一気に読みました。家茂の正室として降嫁した和宮との嫁姑の確執も興味深く、当然ながら天璋院に肩入れしながら読んだ次第。篤姫の48年の生涯……いろいろ感じ、いろいろ考えさせられました。

 新選組や坂本龍馬が活躍したこの時代を幕府の視点で眺めるのは初めてなので、新鮮で面白い体験でした。立場が変わると歴史を別の角度から見ることができて、理解が深まります。

 さて、再来年、この篤姫を演じるのは誰でしょう? 大本命はNHKのお気に入りの松たか子? 晩年はややきつそうだけど、大奥時代が中心と思われるのでちょうどいいのでは……。個人的な好みとしては、小雪の篤姫も見てみたい。いや、小雪はお万の方というイメージかな。配役の発表が今から楽しみです。

新装版 天璋院篤姫(上) (講談社文庫 )

新装版 天璋院篤姫(下) (講談社文庫 )

【追記】2006年9月8日
 大河ドラマ『篤姫』の主役は、『純情きらり』に出演中の宮崎あおいに決まったそうです。うーん、うまいけれど、ちょっと若すぎる気がするなぁ……。

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2006/07/13

『続 徳川の夫人たち』(吉屋信子)

 『徳川の夫人たち』の続編。お万の方の一代記の本編に対し、この続編はそれ以降の大奥の年代記で、代々の御台所や側室をはじめ、大奥を取りしきる御年寄や上臈について語られます。

 将軍は、京都の宮家や摂関家から輿入れしてきた御台所のほか、数人の側室を置くのが常だったので、お世継ぎをめぐる争いが起きるのは必定。お付きの女中たちも含めて、さまざまな確執や策略が入り乱れます。大奥というと、そのあたりを興味本位に取り上げられることが多いのですが、吉屋信子は、そうしたややこしい組織を取りしきる才女たちに共感を寄せて描いているので、読んでいるうちにこちらまで贔屓になってしまいます。

 中でも印象に残っているのは、綱吉時代の取締役・右衛門佐、江島生島事件で大奥を追放された江島、江戸城明渡しの際の御年寄・滝山。彼女たちの凛とした生き方にあこがれます。タイムスリップできるものなら、大奥を実際に見てみたい。いや、どうせなら女中として働いてみたい。将軍や御台所にお目通りできる御目見得の下っ端あたりで。

 そういえば、年末に公開される映画『大奥』は、絵島(江島)が主役(仲間由紀恵)とのこと。この小説では、江島と生島との間にスキャンダルはなく、江島は幕臣たちの謀略の犠牲になったという解釈でしたが、映画ではどういう展開になるのか、興味深いところです。

続 徳川の夫人たち 上 朝日文庫

続 徳川の夫人たち 下 朝日文庫

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2006/06/17

『昭和史(戦後篇) 1945→1989』(半藤一利)

 一昨年読んだ『昭和史 1926→1945』の後編。前編同様、著者の講義を文章に書き起こした本なので、分厚い本にもかかわらずとても読みやすく、敗戦後の日本がどのように復興して現在の状態に至ったかが、1930年生まれの著者の実感を交えてわかりやすく語られています。

 とくに、アメリカの占領下、GHQによる指令で日本が大きく改革させられた時代に多くのページを割き、順を追って詳しく説明されており、たいへん興味深く読みました。天皇象徴制、主権在民、戦争放棄を謳った新憲法成立までの紆余曲折、戦争犯罪人を裁いた東京裁判など、聞いたことはあるけれどよく知らないことが種明かしのように語られ、「そうだったのか」と納得しました。

 こうして歴史を詳しく読むと、歴史の流れや世界情勢、国の事情など動かしがたい状況はあるにしても、為政者たちの考え方や姿勢が国を左右することを実感します。政治なんて誰がやっても大差ないと白けた気持ちでいてはいけないようです。

 ふだんはお気楽に自分のまわりのことしか考えていない私ですが、知らず知らず日本の行く末を案じてしまいました。私利私欲に走らず、大局を見据えて日本を導く大人物が出てこないものか……まずは、そういう人物が出てくるような土壌を作らなければなりませんね。日本人であることを誇りに思えるような国になって欲しい、と願わずにはいられません。

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2006/06/15

『徳川の夫人たち』(吉屋信子)

 何故か、今頃、大奥がマイブームです。テレビドラマを断片的に見て、何となく大奥のようすは知ってはいるものの、改めて小説を読んでみると、これがたいへん面白い。まず、松本清張の『大奥婦女記』でおおまかな流れと有名な人物を知った後、この小説を読みました。

 三代将軍徳川家光の側室、お万の方の一代記。家光のお召しによって、17歳で尼寺の住職から還俗させられて大奥入りしたお万の方の数奇な運命を、吉屋信子が格別の思い入れを持って綴った小説です。

 京の公卿の娘という高貴な生まれで、学識豊かで才知にたけ、しかも若さと美貌を兼ね備えたお万の方は、尼僧から将軍の愛妾という運命の転変を泣く泣く受け入れ、やがて家光の寵愛を一身に受けるようになります。そして、子を持てない弱い立場でありながら、春日局亡き後、取締として大奥を仕切ります。

 その若さでちょっと人間ができすぎじゃない、と思いつつ、思い入れたっぷりの吉屋信子の文章に誘われ、ついお万の方に肩入れしながら読みました。視点を変えれば、お万の方だって鼻持ちならない女になりかねません。そのあたりが大奥ものの面白さかもしれませんね。

 ドラマでは「嫉妬と確執が渦巻くドロドロした女の世界」という面ばかりが強調されますが、吉屋大奥はさすがに格調高く、華やかな大奥絵巻という印象でした。

徳川の夫人たち 上 朝日文庫

徳川の夫人たち 下 朝日文庫

関連記事:
『続 徳川の夫人たち』(吉屋信子) (2006年7月13日)

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2006/06/05

『文章読本さん江』(斎藤美奈子)

 ものすごく面白くて、一気に読了しました。谷崎潤一郎『文章読本』、三島由紀夫『文章読本』、清水幾太郎『論文の書き方』を文章読本界の御三家、本多勝一『日本語の作文技術』、丸谷才一『文章読本』、井上ひさし『自家製 文章読本』を新御三家に選定。その他何十冊もの文章指南書を徹底分析して、鋭く考察した評論です。

 と言うと、いかにも硬い論文のようですが、斎藤美奈子流の緩急自在な文体で、新旧文章読本を容赦なくばっさばっさと斬っていきます。時に会話体やパロディを交えてわざとオトシつつも、評論としての品位を保っている絶妙なセンスに感服するばかり。

 各時代の文章指南書の背景を検証するために、日本の作文教育の歴史にかなりのページを割いていますが、これがまた興味深くて面白い。結局、現在の文章読本は、「子どもらしい『表現の意欲』を重んずる学校作文と、大人っぽい『伝達の技術』求められる非学校作文」の隙間を埋めたもの、と著者は結論づけています。そして最後に、「文は服なり」と主張しています。

 何を隠そう、私は文章指南書につい手を出したがる性癖があって、本多本と井上本は本棚に並んでいるし、ほかにも読んだ覚えがある本が続々出てきて、かなり笑えました。けれども、再認識しました。いくら「文章読本が説く五大心得」を心がけて、「文章読本が激する三大禁忌」を犯すことなく、「文章読本が推す三大修業法」を積んだとしても、斎藤さんのような文章力やセンスは絶対身に付けられない、と。

 文章読本のあれこれも面白かったけれど、何より印象深かったのは、斎藤さんの文章なのでした。

 文章読本が説く五大心得
  ①わかりやすく書け
  ②短く書け
  ③書き出しに気を配れ
  ④起承転結にのっとって書け
  ⑤品位をもて

 文章読本が激する三大禁忌 
  ①新奇な語(新語・流行語・外来語など)を使うな
  ②紋切り型を使うな
  ③軽薄な表現はするな

 文章読本が推す三大修業法
  ①名文を読め
  ②好きな文章を書き写せ
  ③毎日書け

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2006/06/01

文庫の文字サイズ

 最近の文庫は文字が大きめでありがたい。本の文字の大きさを気にするようになった我が身が悲しいけれど、老眼が進みつつある目には文字サイズは深刻な問題なのです。

 文庫は原則的に読んだら処分していますが、「いつかもう1度読みたい」と思うようなものは厳選して取ってあります。けれども、そういう本をいざ再読しようとしても、昔の文庫は文字が小さくて敬遠したくなります。そして、文字が大きい新装版が出ていれば、新たに買ってしまったりするのです(例: 『父の詫び状』)。

 手元にある文庫だけでなく、書店に並んでいる文庫の中にもいまだに文字の小さいものもあり、それしかない場合はたいへん困ります。いえ、読めないことはないんですよ。いちおう老眼鏡なるものも作りましたしね。でも、3年前に作ったこのメガネは度が弱すぎて、あまり役に立ちません(作り直さなければ!)。

 そうかと思えば、先日、図書館で借りてきた講談社文庫の<大きな文字で読みやすい新装版>は、文字がひときわ大きくて驚きました。読書のリズムが変わってしまいそうなほど、1ページの文字数が少ないんです。始めは戸惑いましたが、これに慣れたら、普通の新装版さえ文字が小さいと感じる始末。まして、小さい文字の文庫なんてとんでもない、という心境です。

 「ほぼ日」の「新潮文庫のささやかな秘密。」によれば、新潮文庫で現在、標準的に使用している文字サイズは、9.25ポイント。90年前の創刊当時には7.5P、戦後になっても昭和57年までは8P、以後、段階的に8.5P、9P、9.25Pと拡大してきたそうです。そして、すでに刊行されている小さい文字の文庫も、文字拡大の改版作業を進めているとのこと。

 文字の拡大化という心強い傾向を歓迎しつつ、老眼初期の今のうちに、読めるものはどんどん読んでおきたいと改めて思うのでした。

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2006/05/16

『王妃マリー・アントワネット』(遠藤周作)

王妃マリー・アントワネット (上巻) (新潮文庫)
王妃マリー・アントワネット (上巻) (新潮文庫)
王妃マリー・アントワネット (下巻) (新潮文庫)

 宝塚の『ベルサイユのばら』を星組版、雪組版と観ているうちに無性に原作が読みたくなって、30年ぶりに全巻通して読んだら、すっかりベルばらワールドに取り付かれ、さらにこの小説を再読しました。これは、今年11、12月に帝劇で上演されるミュージカル『マリー・アントワ