2016/02/22

五百羅漢図展 競演

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 増上寺の「狩野一信の五百羅漢図展」と森美術館の「村上隆の五百羅漢図展」をハシゴしてきました。

 増上寺の五百羅漢図展は本堂地下の宝物展示室で前期後期の入れ替え制で20幅ずつ展示されています。現在は第41幅から60幅。2011年に江戸東京博物館で全100幅が公開されたときに見学して以来の再会でした(そのときの記事はこちら)。何度見ても見飽きることがない心に深く突き刺さる絵です。

 この宝物展示室は昨年4月にオープンしたばかり。ここに常設展示されている台徳院殿霊廟(2代将軍・徳川秀忠の霊廟)の模型が素晴しい。博物館や史料館によくある模型とはレベルが違います。明治43年(1910)にロンドンで開催された日英博覧会に東京市が出品したもので、当時増上寺に存在した霊廟を10分の1のスケールで本物と同じ工程で精巧に再現してあります。博覧会閉幕後は英国王室に贈呈され、ロイヤルコレクションとして保管されてきましたが、宝物展示室オープンに際して増上寺に貸与されることになり修復復元されました。

 明治末期とはいえ、旧幕府の霊廟の模型を海外で公開したのは意外ですが、霊廟の装飾建築がそれほど優れていたということでしょう。東照宮と同じような霊廟が戦災で焼失してしまったのはつくづくもったいなく残念なことです。

 この宝物展示室と徳川家墓所が共通券で1000円だったので、墓所初参拝の夫と墓所も拝観しました。ちょうどボランティアの方のガイドが始まったところで、興味深いお話を聞けて有意義な時間でした。

Img_0910 実は、増上寺に行った一番の目的は干支の起き上がり小法師。お正月に買い損ねたので、ようやく手に入れることができました。

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 芝東照宮の隣りにこじんまりした梅林があり、見頃を迎えて芳しい香りが漂っていました。

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 満足感にひたりつつ増上寺を出て六本木ヒルズに移動しました。六本木はもうパスしようかとも思いましたが、予定通り行ってよかった! 村上隆さんの五百羅漢図、これまたすごかった! 五百羅漢図に限らず、村上ワールドは強烈なパワーを放っていて、よくわからないながらも圧倒されました。

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 村上さんの五百羅漢図は、青竜、白虎、朱雀、玄武の4つのパートに分かれていて全長100mあります。東日本大震災後にいち早く支援の手を差し伸べてくれたカタールに感謝を込めて、震災の翌年2012年にドーハで発表されました。村上さんのスタッフのほか、日本中の美大から200人以上のスタッフを募って、約1年で完成させたそうです。その資料も展示してありましたが、絵を描くというより、アニメ製作のような印象でした。そうそう、村上さんが触発されたという増上寺の五百羅漢図も2幅展示されてました。

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 斎藤工の音声ガイドがなかなかよかったです。いい声でした(笑)。いやいや、斎藤工だから借りたわけではありませんよ。ちなみに、階下の「フェルメールとレンブラント展」のほうは玉木宏。ターゲットがわかりますね。ミーハーな話で終わります。

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2013/12/13

歌舞伎座十二月大歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』

 今年1月から続いた私的歌舞伎教室も残すところあと2回になりました。ラスト2回は『仮名手本忠臣蔵』で締めくくります。

 歌舞伎座では先月から『仮名手本忠臣蔵』の通し狂言が月替わりの配役で上演中。先月はベテラン、今月は若手中心の配役で、幸四郎、玉三郎、染五郎、海老蔵、菊之助、七之助ら、豪華な面々が演じています。

Img≪昼の部≫

大 序  鶴ヶ岡社頭兜改めの場
三段目 足利館門前進物の場
      同  松の間刃傷の場
四段目 扇ヶ谷塩冶判官切腹の場
      同  表門城明渡しの場
浄瑠璃 道行旅路の花聟

≪夜の部≫

五段目 山崎街道鉄砲渡しの場
      同   二つ玉の場
六段目 与市兵衛内勘平腹切の場
七段目 祇園一力茶屋の場
十一段目 高家表門討入りの場
       同 奥庭泉水の場
       同 炭部屋本懐の場

 昼夜を通しで観ると、11時から21時まで10時間もかかるので、体力も集中力もとても続きません。2日に分けて、昼の部は昨日12日に観劇、夜の部は来週17日の予定です。

 まずはウンチクを少々。この演目は忠臣蔵といっても、元禄時代に起きた浅野内匠頭の刃傷事件や赤穂浪士の討入りをそのまま舞台化したものではなく、時代背景を南北朝時代の『太平記』の世界に借りています。実際に起きた事件を舞台化することを幕府が禁じていたので、設定を換えているわけ。実在の人物を『太平記』の登場人物の名に置きかえたり、独自に創作したりしています。
 吉良上野介 ⇒ 高師直
 浅野内匠頭 ⇒ 塩冶判官
 大石内蔵助 ⇒ 大星由良之助

 刃傷事件と討入りを下敷きにした筋立てですが、本筋とはあまり関係ないエピソードがかなりの部分を占めています。忠臣蔵だけど、忠臣蔵じゃない、と言ったらいいか。ちなみに、仮名手本とは、四十七士をいろは四十七文字になぞった名題。人形浄瑠璃の演目として創作・上演され、人気を博したため、まもなく歌舞伎でも上演されるようになりました。

昼の部観劇(12月12日)

 歌舞伎の何が面白いって、昔からの慣習が今も変わらず続いていること。理屈とか効率ではなく、あくまでも伝統重視であること。今回でいえば、大序の演出はとても興味深く印象的でした。

 幕開きの前に口上人形が登場し、「えっへん、えっへん」と言いながら、全配役を紹介します。その後「とーざい、とーざい」という声がして、定式幕が開けられますが、舞台上の人物はみな人形のように顔を伏せています。かつて時代物の序段はみなこのように始まったそうですが、現在は『仮名手本忠臣蔵』でしか見られません。

 前半の主な人物が鶴ヶ丘八幡宮に勢揃いする大序から始まり、「松の廊下」の刃傷事件にあたる三段目、塩冶判官の切腹と城明渡しの四段目と続き、最後におかると勘平の道行があります。道行とは、旅する場面を所作(踊り)で表現したもの。本来は三段目の最後にあった場面を道行風にアレンジして、荘重な四段目の後につける慣習だそうです。

 この道行の海老蔵さんと玉三郎さんが綺麗でね。夜の逃避行なのに舞台は明るく桜や菜の花が咲き乱れていて、切腹と城明け渡しの場面の暗さや重さを払拭できるのです。ま、宝塚のフィナーレみたいなものですね。

 海老蔵さんは休演の三津五郎さんの代役で高師直を演じていて、いじめたり言い寄ったり熱演していました。が、これはやっぱり三津五郎さんで観たかった。三津五郎さんはその後、どうされているか、心配です。11月の高師直役の仁左衛門さんも休演されたし、歌舞伎界は何故こんなに病人が続くんでしょう。

 師直(海老蔵)と判官(菊之助)、若狭之助(染五郎)の三人の見栄の場面が色彩的にもルックス的にも美しかった。有名な「由良之助はまだか」は判官の切腹前の台詞だったのですね。納得しました。途中、少々眠くなりながらも何とか4時間半頑張りました。歌舞伎は長すぎる!

夜の部観劇(12月17日)

 やっぱり、忠臣蔵は討ち入りに向かう後半のほうが断然盛りあがりますね。

 「色にふけったばっかりに」悲劇的な最期を迎える勘平役の染五郎さんは美しさの中に哀れさとはかなさを誘うし、七之助さんのおかるもいじらしくていいコンビでした。

 続く祇園の廓の場面の玉三郎さんのおかると海老蔵さんの兄・平右衛門はとびきり美しく、緩急自在の演技が素晴らしく息もぴったりで、目にも満足、胸にも迫る至福のひとときでした。今年いろいろな役の海老蔵さんを観ましたが、この役に一番心を動かされた気がします。

 この日、帰宅後、中村獅童さんのお母様が亡くなったことを知りました。獅童さんは普段通りに出演され、切れのある殺陣を見せていましたが、急なことでお辛いでしょうね。ご冥福をお祈りいたします。

 火消し装束が格好いい浪士たちの勝鬨に送られて歌舞伎座を出ると、銀座の街は華やかなイルミネーションに彩られており、舞台の余韻にひたりながらルンルン気分(死語)で歩きました。

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2013/09/13

歌舞伎座 九月花形歌舞伎『陰陽師』

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 火曜日に3ヵ月ぶりに歌舞伎座に行ってきました。第7回歌舞伎教室の演目は新作歌舞伎『陰陽師 滝夜叉姫』。若手花形役者勢揃いなので見逃すわけにはいきません。

 安倍清明:市川染五郎
 平将門:市川海老蔵
 滝夜叉姫:尾上菊之助
 俵藤太:尾上松緑
 源博雅:中村勘九郎
 桔梗の前:中村七之助
 興世王:片岡愛之助
 

 ね、豪華メンバーでしょう? 宝塚でいえば、5組のトップスター揃い踏みという感じです(笑)。大御所の方々の豊潤な芸は素晴らしいけれど、ミーハー的にはこういうメンバーのほうがときめきます。

 夢枕獏原作の伝奇小説を歌舞伎化した演目で、今回が初演。新しい歌舞伎座初の新作歌舞伎です。平将門の乱をめぐる奇怪な事件の謎に挑む陰陽師・安倍清明のお話。染五郎さんの安倍清明をはじめ、上記の7名がそれぞれ当て書きのように嵌っていてとても楽しめました。おどろおどろしい雰囲気に満ちた舞台で、古典歌舞伎とはだいぶ違う印象。これも歌舞伎なんですね。

 それにしても、今年は将門にご縁があります。雨の神田祭で将門像を拝み、将門塚にお参りし、今回は舞台の将門公にお会いし……。成敗された後、将門の生首(海老蔵さんの顔)から血がたらーっと流れる場面があって、ぞぞぞとしました。海老蔵さん、神田明神や将門塚にお参りしたでしょうね。心配になりましたよ。

 やさしく熱血漢だった将門が新皇を名乗って朝敵になったのは、興世王のせい。すべては興世王=藤原純友の陰謀だったという結末でしたが、興世王の愛之助さんの悪役ぶりもよかったです。ドラマ『半沢直樹』のオカマ検査官で活躍して乗っていますね。華麗なる御曹司たちに負けない存在感がありました。

 同じメンバーによる『新薄雪物語』も後日観劇の予定です。

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9月23日(月・祝)  第8回 『新薄雪物語』観劇

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2013/07/13

松竹大歌舞伎 市川猿之助襲名披露

 お暑うございます。梅雨が明けた途端、記録的な猛暑に見舞われていますが、皆様、お変わりありませんか?

 ただでさえ途絶えがちなこのブログ、こう暑いとますます間遠になります。ノートPCのキーボードに手を乗せていると、指の先からPCの熱が伝わってきて暑さ倍増ですからね。先週観た歌舞伎の記事もつい一日延ばしになり、1週間経過してしまいました。

Img 第6回歌舞伎教室は、猿之助襲名披露興行の地方巡業をお隣りの府中で観てきました。この公演のことを知ったときにはすでにチケット完売でしたが、ラッキーにも直前に入手できました。歌舞伎の地方巡業は歌舞伎座などに比べてお安く(S席でも5000円)お得。花道がなくて少し物足りないけれど、4000円で1階席で観られて大満足でした。

 演目は、『毛抜』『襲名披露 口上』『義経千本桜』 。『毛抜』は『雷神不動北山桜』の二幕目で、文屋豊秀の家臣粂寺弾正(市川右近)が許嫁である小野春道の姫君錦の前の奇病の真相を突き止める話。お姫様の髪が逆立つ奇病は、天井に仕掛けられた大きな磁石が鉄のかんざしを引きつけるせいだったんです。なんて強力な磁石!(笑) 磁石は江戸時代に発見されたそうですよ。逆立つ髪も宙に浮かぶ毛抜きも黒子が竿を操って表現するのがなんとも歌舞伎らしい。

 そして、『義経千本桜』の川連法眼館の場、通称「四の切」。舞台は、源義経が匿われている吉野の川連法眼の館。静御前(中村梅玉)が初音の鼓を打つと、佐藤忠信に化けた狐(猿之助)が現れます。鼓の皮に使われた狐の子が親を慕ってやってきたのです。「狐忠信」の狐らしい動きや表情、早変わりなどが目玉で、先代猿之助の当たり役。通常公演では宙乗りもあります。

 亀治郎改め、猿之助さんの舞台を初めて観られて満足。狐忠信、とても楽しめました。猿之助さんはここ数年、歌舞伎座に出演されてないそうで、そのへんの事情はわかりませんが、今度はどこかで宙乗りを見てみたいです。襲名披露の口上というのも初めてで興味深かった。お披露目のご本人だけでなく、主な役者がずらっと並ぶのが壮観でした。

 下の写真は福山雅治さんデザイン、寄贈の祝い幕。携帯なのでピンぼけですみません。

 
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2013/06/13

歌舞伎座 柿葺落六月大歌舞伎 第三部

 第5回歌舞伎教室。待望の海老蔵さんの助六です! 本来なら市川団十郎さんが勤めるはずだったこの役を海老蔵さんが演じると知って楽しみにしていました。

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 カッコよかった~! 3階後方端っこの席からオペラグラスで釘づけ。ミーハーの血が騒いで、もうメロメロですわ(爆)。江戸っ子が役者の錦絵を買い集めた気持ちがわかりましたよ。検索したら助六の絵が山ほどあったので、市川団十郎の絵を貼っておきます。今も同じ扮装をするのがすごい。赤い襦袢に黒小袖、紫の鉢巻き、黄色の足袋に下駄という粋な助六ファッションが素晴しくお似合いでした。華やかで押し出しが強くて主役の風格があって、文句のつけようがありません。色気があり、かつ愛嬌もあって、助六そのもの! 

 この演目『助六由縁江戸桜』は市川宗家(成田屋)のお家芸として選定された歌舞伎十八番の一つで、このタイトル(外題)を使えるのは成田屋だけ。ほかの役者が助六を演じる場合はタイトルが少し変わるそうな。つまり、成田屋は代々、一番の助六役者であることを期待されているわけですね。梨園というのはたいへんな世界です。海老蔵さんの子ももう期待されています。

 実はこの助六は曽我五郎。先日観た『壽曽我対面』でも海老蔵さんが演じていました。助六は、養父が紛失した源氏の宝刀「友切丸」を探しています。これを見つけないうちは仇討ちができないので、夜毎に吉原に現れては喧嘩を売って刀を抜かせているのです。舞台は吉原の大籬(おおまがき)三浦屋の前。たった一幕「三浦屋格子先の場」だけで2時間以上上演されます。

 まず口上(幸四郎)があり、花魁道中から始まります。揚巻(助六の彼女、福助)や白玉(七之助)をはじめ大夫、禿、新造、遣手、男衆など、吉原の人々が大勢登場し、一気に江戸の吉原にタイムスリップさせられます。花魁の衣装、とくに揚巻の衣装の豪華絢爛さには目を瞠りました。吉原の風景を見ているだけでも十分楽しめます。イヤホンガイドはいろいろなウンチクを聞かせてくれましたが、キリがないので省略。

 そこに登場する人々がそれぞれ個性的で面白い。とりわけ、「じぇじぇじぇ」「今でしょう!」と笑いを誘い、ツイッターでつぶやく三津五郎さんの通人は大受け、拍手喝采でした。『対面』で十郎役だった菊之助さんがうどん屋の出前持ちに扮し、ここではお父様の菊五郎さんが十郎というのも面白いご縁。団十郎さんの助六仕様なので、脇役も錚々たるメンバーでした。

Img_1234 順序が逆になりましたが、併演は『御存 鈴ヶ森』。助六とは対称的にほとんど黒一色の舞台です。夜なのでね。舞台中央に「南妙法蓮華経」のひげ題目供養碑が無気味に立っています(右はお江戸オフで訪れたときの写真)。この鈴ヶ森で幡随院長兵衛(幸四郎 )と白井権八(梅玉)が出会う話です。権八の趣向をこらした立ち回りが楽しめました。

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 今からがこの揚巻が悪態の初音。意休さんと助六さんを並べてみたところが、こちらは立派な男ぶり、またこちらは意地の悪そうな男つき、たとえて言おうなら雪と墨、硯の海も鳴門の海も、海という字は二つはなけれど、深いと浅いは客と間夫(まぶ)、間夫がなければ女郎は闇、暗がりで見ても、助六さんとお前と取り違えてよいものかいなぁ。
 (『助六』 揚巻の悪態)

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2013/06/11

歌舞伎座 柿葺落六月大歌舞伎 第二部

201306041406000 第4回歌舞伎教室。6月はいよいよ海老蔵さんが歌舞伎座に登場します。今月は演目を変えて2回観ますよ。まずは4日に第二部の『壽曽我対面』と『土蜘蛛』を観劇。

 『壽曽我対面』。曽我物です。曽我物とは、曽我十郎・五郎兄弟が亡き父親の仇を討つ物語を題材としたもの。江戸歌舞伎の正月興行は曽我物と決まっていて、この『対面』はいろいろな趣向で必ず上演されました。曽我兄弟が父の仇、工藤祐経と初めて会う場面で、視覚的にも音楽的にも様式美にあふれた一幕。しかも、歌舞伎の役どころがほとんど勢揃いします。この演目をこけら落し公演ならではの豪華出演者が演じるのだから、これは見逃せません。

 座頭の工藤(仁左衛門)、和事の十郎(菊之助)、荒事の五郎(海老蔵)、立女形の虎(芝雀)、若女形の少将(七之助)、敵役の八幡(松江)、立役の近江(男女蔵)、実事の鬼王(愛之助)。

 和事と荒事――十郎・五郎の兄弟を見たら、その違いが一目瞭然でよくわかりました。荒ぶる海老蔵、いや五郎を押しとどめる菊之助・十郎。二人とも実にはまっていて、姿がとても美しく絵になります(結局そこ)。ただ、海老蔵さんはビジュアルと声にギャップがあるように感じてしまう。歌舞伎初心者の感想なので悪しからず。

 話は単純だし、祝宴なので居並ぶ面々の装束は豪華で美しく、これぞ歌舞伎という感じ。外国からの旅行者にも楽しんでもらえるような演目です。

 『土蜘蛛』。すみません、眠くなりました。舞台転換がなく単調だったのでつい……。この演目は松羽目物といい、能を原作とした舞踊劇。能舞台のように舞台正面に大きな松を描いた板羽目が置かれ、その前に長唄囃子の雛段が並びます。つまり、舞台はほとんど変化なく進行するのです。お正月に観た『勧進帳』も松羽目物でした。

 簡単に言うと、源頼光(吉右衛門)が土蜘蛛の化身(菊五郎)と戦う物の怪退治の話。立ち回りで土蜘蛛がくもの糸を放つ演出が印象的です(この日は1度失敗あり)。途中、軽めの寸劇(いわゆる狂言)が入り、ちょっと一息つけました。

 この日ももちろんイヤホンガイド使用。歌舞伎の内容がよくわかり、ウンチク好きには楽しめます。開演前から解説が始まるので、少し早めに着いて聴き始めたほうがよさそう。幕間も解説を聴きながら飲み食い。くたびれますけどね。

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 今日はいかなる吉日にて、日頃逢いたい見たいと、神仏をせがんだ甲斐あって、今逢うは優曇華(うどんげ)の、花待ち得たる今日の対面。
 (『対面』 工藤と対面したときの五郎の台詞)

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2013/05/16

明治座 五月花形歌舞伎

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 旅行記に戻る前にもう一つ、先週出かけた歌舞伎のことを書いておきます。

 第3回歌舞伎教室は明治座。大御所勢揃いの歌舞伎座ではなく、中村勘九郎・七之助兄弟、市川染五郎、片岡愛之助と若手人気役者揃い踏みの明治座を選びました。そういえば、某読者より「歌舞伎教室って何?」という質問がありましたが、とくに深い意味はありません。歌舞伎見物と言うより、アカデミックに聞こえるでしょ?(笑) 歌舞伎を知るために10回は続けようと思います。それ以降も観るとしたら、趣味の世界に突入ね。

 今回は初めてイヤホンガイドを借りました。これが大正解! お富・与三郎の『与話情浮名横櫛』はともかく、一幕目の『実盛物語』はまったく知らない話なのに、内容がよくわかって楽しめました。演目のあらすじ、歴史や背景、役者の名、歌舞伎の約束事、音楽や唄、衣装や髪型など、さまざまなことをタイミングよく説明してくれます。幕間にも次の演目の説明や出演者のインタビューまで聞けます。"歌舞伎教室"では毎回借りることにしましょう。

 今回楽しみにしていたのは二幕目のお富さんでしたが、実は『実盛物語』のほうが面白かった。勘九郎さんの実盛がすごくよかったんです。見た目も格好よいし、内面からにじみ出る温かさに打たれました。「お父さんに似てるなぁ」としみじみ……勘三郎さんの歌舞伎は一度観ただけなのに姿が目に浮かびました。

 この演目は子役が活躍しますが、可愛くて上手で微笑ましかった。歌舞伎の楽しみは、子役がやがて成人して一人前の役者になり、結婚して子供が生まれて、その子が舞台に立つようになって――と、役者の生涯、血の繋がりを見守り、芸の成長や継承を見届けるところにもありそうですね。

 そして、『与話情浮名横櫛』。染五郎さんの与三郎は「水もしたたる」という形容がぴったりの若旦那、七之介さんのお富は粋で色っぽい芸者上り。二人がお互いに一目惚れする羽織落としの場面が印象的でした。二人の仲がばれてめった斬りにされる与三郎は痛々しい。が、傷だらけの姿がまた美しい。

Img_1915 有名な『玄冶店』の場面。歌舞伎では普通、『源氏店』と書いて「げんやだな」と読ませるそうですが、明治座は玄冶店があった人形町から近いので、この公演では本来の『玄冶店』となっています(右の写真は、人形町の玄冶店跡)。「もし、ご新造さんえ、おかみさんえ、お富さんえ、イヤサお富、久しぶりだなあ」 本物を初めて聞きました。来るぞ来るぞ、という興奮がいい。でも、意外にあっさりしていました。

 やっぱりビジュアルが映える若手の舞台はいいな。結局、ミーハーな私。勘九郎さんご出演予定の「真田十勇士」が気になります。来年だけどね。

 そうそう、明治座の前に水天宮(左)ができていてびっくりしました。社殿建替え工事のため、3月から移転しているそうです。まったく知りませんでした。もうこの社殿(右)を見ることはないんですね。

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 しがねえ恋の情が仇(あだ)、命の綱の切れたのを、どう取り留めてか木更津から、めぐる月日も三年(みとせ)越し、江戸の親には勘当受け、拠所(よんどころ)なく鎌倉の、谷七郷(やつしちごう)は喰い詰めても、面(つら)へ受けたる看板の、疵が勿怪(もっけ)の幸いに、切られ与三(よぞう)と異名を取り、押借り強請(ゆす)りも習おうより、慣れた時代の玄冶店、そのしらばけか黒塀に、格子造りの囲いもの、死んだと思ったお富とは、お釈迦様でも気がつくめえ。
 (『玄冶店』 与三郎の台詞)


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2013/04/24

歌舞伎座 柿葺落四月大歌舞伎

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 新しい歌舞伎座のこけら落とし興行に行ってきました。ご覧の通り、外観はほとんど旧歌舞伎座のまま。背後の高層ビルがなければ判別できないかもしれませんね。もちろん、白壁はぴかぴかですが。地下鉄「東銀座」駅から直結する地下の部分が最も変わったようです。

 ひとり歌舞伎教室第2弾の演目は、「弁天娘女男白浪」と「忍夜恋曲者 将門」。白浪五人男ならわかりやすいかなと思いました。あらすじと見所をざっと予習して観劇。イヤホンガイドを借りるという手もありますが、使い心地はどうなんでしょう? 舞台の台詞や音楽以外の音が聞こえて邪魔ではない?  

 かの有名な「知らざぁ言って聞かせやしょう」は弁天小僧の台詞だったんですね。七五調の名台詞が耳に心地よく響きました。菊五郎さんの声は3階席までよく通って聞きやすい。が、残念ながら意味はほとんど頭に入ってきません。ま、わからないなりに楽しめます。白浪五人男の名乗りの場面はわくわくしました。パロディではよく見るけれど、本物は初めて。

 この白浪五人男には「がんどう返し」という舞台の仕掛けがあります。屋根の上で立腹を斬った弁天小僧を載せたまま、その屋根が90度後ろに倒れて、次の舞台が現れる仕掛け。江戸検定のテキストに出てきましたが、実際に見て納得しました。こういう仕掛けも江戸時代からずっと続いているところがすごい。

 もう一方の「将門」では最後に屋台崩しがあります。玉三郎さん演じる滝夜叉姫(将門の娘のもののけ)は正体がばれた後、蝦蟇(ガマガエル)の妖術を使って御所を壊し、崩れ落ちた屋根の上に蝦蟇と現れて幕となります。妖しくも美しい滝夜叉姫と巨大なガマガエルの姿が観客の目に焼き付けられる派手な仕掛けでした。ただ、3階席からだと上部が見えないのが残念……お安いから仕方ないけれど。

 「将門」はほとんどが常磐津と舞踊で進行します(こういう演目を所作事という)。あらかじめ話を知った上で観るものなんでしょうね。常磐津、長唄、清元などの違いは今のところまったくわかりません。三味線や肩衣の色、舞台の位置も違うようです。

 歌舞伎は形式の継承を重んじていることがよくわかります。さまざまな決まりごとを知ると、もっと楽しめそう。そうそう、歌舞伎って上演中も客電がついたままなんです(演出上、暗くなることはあり)。これも伝統でしょうが、暗い客席に慣れている身にはどうも集中しにくく慣れません。

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 知らざあ言って聞かせやしょう。浜の真砂と五右衛門が、歌に残せし盗人の、種は尽きねえ七里ヶ浜、その白浪の夜働き、以前を言やあ江ノ島で、年季勤めの児ヶ淵、江戸の百味講(ひゃくみ)の蒔銭(まきせん)を、当てに小皿の一文字、百が二百と賽銭の、くすね銭せえだんだんに、悪事はのぼる上(かみ)の宮、岩本院で講中(こうじゅう)の、枕捜しも度重なり、お手長講(てながこう)を札付きに、とうとう島を追い出され、そこから若衆の美人局、ここやかしこの寺島で、小耳に聞いた祖父(じい)さんの、似ぬ声色(こわいろ)で小ゆすりかたり、名さえ由縁の弁天小僧菊之助とは俺がこった。
 (『白浪五人男』 弁天小僧の台詞)


 問われて名乗るもおこがましいが、産まれは遠州浜松庄、十四の年から親に放れ、身の生業も白浪の、沖を越えたる夜働き、盗みはすれど非道はせず、人に情けを掛川から、金谷をかけて宿々(しゅくじゅく)で、義賊と噂高札(たかふだ)に、廻る配符の盥(たらい)越し、危ねえその身の境界も、最早四十に人間の、定めは僅か五十年、六十余州に隠れのねえ、賊徒の首領日本駄右衛門。
 (『白浪五人男』 日本駄右衛門の名乗り)

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2013/01/17

2013新春浅草歌舞伎

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 1月も半ばを過ぎて、2週間前はお正月だったことが嘘のような気さえしますが、昨日は浅草でふたたびお正月気分に浸ってきました。観音様にお参りして、歌舞伎を観て、江戸のお正月を満喫しました。

 今年は歌舞伎を観よう。今までも歌舞伎のことは気にはなっていたけれど、他のジャンル(男女逆の)の観劇で手一杯のため手が出せなかったんです。でも、今年なら何とかなりそう。今のところ、同じ舞台を何度も観たいような対象がいないので、少し余裕ができそうです。一番安い席限定で歌舞伎も観てみよう。

 というわけで、人生3度目の歌舞伎鑑賞となりました。最初は学校の歌舞伎教室、2度目はご招待で勘三郎さんの『四谷怪談』。そして、今回初めて自費で観た歌舞伎は、海老蔵さんの『勧進帳』ほか。ミーハーな初心者にはもってこいの役者、演目です。

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 海老蔵さんの弁慶、カッコよかった~! いきなり、しょうもない感想ですみません。舞台姿がひときわ美しく、主役を張るにふさわしい華と風格があり、惚れ惚れしました。より一層精進して、天性の華をさらに大きく咲かせてほしい、と勘三郎さん亡き今、願わずにはいられません。もう1つの演目『毛谷村』では、村人役でちょこっと出演しただけで場をさらっていました。

 新春口上の最後に「にらみ」が披露されました。これは成田屋に伝わるもので、江戸時代からお正月に行なわれていたそうです。これを見ると、1年間無病息災で過ごせるそうな。ありがたや。左下の写真は、4年前のニュース記事から拾ってきたもの。右下は、写楽が描いた蝦蔵(えびぞう・5代目団十郎)。三升の紋がついた柿色の裃とにらみの顔は200年間変わりません。なんだかすごい。

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一、毛谷村(けやむら)

          毛谷村六助  片岡愛之助
               お園  中村壱太郎
               お幸  上村吉 弥
   微塵弾正実は京極内匠  中村亀 鶴
          杣斧右衛門  市川海老蔵


二、寿初春 口上(こうじょう)

              口上  市川海老蔵


三、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)

          武蔵坊弁慶  市川海老蔵
          富樫左衛門  片岡愛之助
             亀井六郎  尾上松 也
            片岡八郎  中村壱太郎
            駿河次郎  中村種之助
          常陸坊海尊  片岡市 蔵
             源義経  片岡孝太郎


 2月4日追記。朝刊で団十郎さんご逝去を知りました。新しい歌舞伎座オープンを前に勘三郎さん、団十郎さんを失ってしまい残念すぎます。10年近く闘病しながらご活躍されたことを思うと「お疲れ様でした」と頭が下がりますが、「せめてあと数カ月……」と思わざるをえません。ご冥福をお祈り申し上げます。

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2010/11/12

「国宝 源氏物語絵巻」(五島美術館)

20100928_img 前から一度行ってみたかった五島美術館。夏頃にこの特別展開催を知り、会期を待って6日に行ってきました。

 この源氏物語絵巻は平安末期12世紀に制作された現存最古のもので、国宝に指定されています。現存するのは全54帖の約4分の1、絵巻10巻のうち4巻分で、名古屋の徳川美術館が3巻強、五島美術館が1巻弱所蔵。今回はそれが一堂に公開される貴重な展示会です。

 900年も昔に書かれた絵巻物を目の当たりにできる幸せ。しかも、絵を見ると「ああ、あの場面ね」と物語を共有できるのが何とも嬉しい。これで字も読めて「あの件ね」とわかればもっと楽しめるのだけど。絵はかなり退色していますが、復元模写の絵が並べてあり往時の彩色を偲ぶことができます。途中で投げ出した源氏物語、また読み始めようかな……そんな気持ちになりました。

 そうそう、絵巻物の全文と絵の説明を載せたリーフレットがほとんど鑑賞の役に立たず残念でした。文字が細かい上、展示室が薄暗くて、老眼の目には厳しい。老眼鏡は必携です! 長蛇の列が予想されているようですが、空いていてゆっくりじっくり見られて何よりでした。

Img_2991 絵巻鑑賞の後、庭園をひとめぐりしてきました。武蔵野の雑木林の中に石仏や石灯籠などが点在しています。自宅の庭に収集したものを並べる――根津美術館などと同じコンセプトですね。そういえば、五島美術館はこの特別展の後、改修工事のため2年間休館するそうです。根津美術館のように斬新な建物に生まれ変わるのでしょうか。

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